World Map Asia

食から読み解く中央アジア
第10章 文明の十字路としての中央アジア

中央アジアは文明の十字路です。長年にわたりシルクロードによる東西交易の重要なルートでもありました。この地域の大まかな特徴としては、オアシス地域を中心としたエリアでは、古来よりペルシア文化の影響を強く受けているほか、北部のステップ(草原)ではテュルク系遊牧民の南下により遊牧文化の影響も見られます。

歴史の流れを見てみると、ペルシア文化をはじめとしてイスラーム文化、遊牧文化、中国文化、さらに近現代にはロシア・ソヴィエト文化がこの地にもたらされました。このような東西南北幅広い地域の文化が行き交う中央アジアは、まさに文明の十字路と言うことができるでしょう。これら多様な文化を巧みに取り入れた中央アジアでは、複雑ながらも魅力的な文化が育まれてきました。

しかし1991年までソヴィエト連邦の構成共和国であった中央アジア諸国は、それまで立ち入ることさえも難しく、この地域に関する情報もほとんどありませんでした。そのことから、私たち日本人にとっては物理的にも心理的にも遠い世界でした。独立から25年を経て比較的自由に中央アジアを訪れることが可能となった現在、ようやく中央アジアが少しずつですが私たちに近づいてきたように思えます。

現在の中央アジアでは、都市部においては、かつての交易の時代を彷彿とさせる伝統的なバザールに加えて、近代的なショッピングモールも見かけるようになりました。惣菜売り場の綺麗なショーケースでは美味しそうなサムサ(パイ)などが売られたり、遊牧民の伝統的な飲み物であるクムズ(馬乳酒)がペットボトルに入って並べられています。

バザールではむき出しのスパイスが売られていますが、食品スーパーではプロフ用ラグマン用にミックスされて美しくパッケージされたスパイスが売られている光景を見ることができます。

グローバル化が進んだ現在において、道路、鉄道、航空路の発達などによって、今までより簡便にヒト、モノが移動できるようになりました。それにより中央アジアの人々の食生活もこれからまた変化が見られるようになるかも知れません。それが現在も変わらず文明の十字路である中央アジアの姿なのでしょう。中央アジアは辺境の閉じられた世界などでは決してないのです。

昨年から連載してきた『食から読み解く中央アジア』は、そんな複雑な中央アジアの世界を、「食文化」をキーワードとして探っていこうという試みでした。

地域理解というと、まずは政治・経済あるいは観光情報という視点から捉えがちですが、現地で生活している人々が普段どのようなものを食べているかということは意外と知られていないものです。しかしながら、彼らが普段から何気なく食べている料理の背景を探っていくと、驚くほど奥深い歴史や文化が見えてきます。

特に、食べ物をきっかけにしてこの地域に興味を持って探求していくことは、その味わいを楽しみながらその地域全体を理解していくことに繋がります。このコラムを読んで一人でも多くの方が中央アジアに興味を持ち、いずれは現地に足を運び、ご自身でその美味しさを味わっていただくことを期待しています。

本稿を含めこれまで10章に渡って連載してきた『食から読み解く中央アジア』は、様々な地域の文化の影響を受けてきた料理のうち、特徴的なものを中心に紹介してきました。もちろん中央アジアの食文化の全てを網羅してきた訳ではなく、まだまだ探究すべきことはありますが、ここで一旦筆を置かせていただくことにします。

これまでお読みいただいた方々に感謝するとともに、中央アジア理解の助けになれば幸いに思います。

写真:
「サムサ(スーパーマケット)」著者撮影
「スパイス(スーパーマケット)」著者撮影

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)