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東方正教会 ― 知られざるキリスト教文化圏
Ⅴ 正教会の祭と民間の伝統行事 ― 2.復活祭

キリストの復活を祝う復活祭は正教会で最も大きな祭です。正教会が優勢な国や地域の言語では、復活祭は「パスハ」と呼ばれるのが一般的です。パスハとはユダヤ教の過越祭(すぎこしさい)を意味するヘブライ語の単語「ペサハ」のギリシャ語読みです。

復活祭の日付は325年の第一全地公会で「春分の日の後の満月の後の最初の日曜日」と定められたため、毎年異なります。ただし、この春分の日とは325年当時に用いられていたユリウス暦に基づくものであり、現在一般に用いられているグレゴリオ暦とは異なります。そのため、カトリックやプロテスタントといった西方教会とは復活祭の日付がずれることがしばしばあります。ちなみに2017年の復活祭は西方教会と同じ4月16日です。

復活祭の礼拝は午前零時に始まり、午前4時頃に終わる長大なものです。まず十字行と言って、参加者全員が真っ暗な聖堂の外を行列して歩き(写真1)、聖堂の門前で開式の祈りをしてから聖堂に入って内部を点灯します。死を象徴する暗闇から生命を象徴する光の世界に移ることをビジュアルに表現しています。


写真1:ニコライ堂の復活祭の十字行

また、復活祭の開始から40日間は特別な挨拶の言葉を言い交わします。これは教会の中だけではなく、正教社会なら期間限定の一般的な挨拶の言葉として用いられます。日本正教会では「ハリストス復活」「実に復活」、英語は”Christ is risen!” ”Indeed He is risen!”、ロシア語は「フリスト―ス・ヴォスクレーセ!」「ヴォイスティヌ・ヴォスクレーセ!」です。わが国の「明けましておめでとうございます」に相通じる感覚かも知れません。

復活祭の長い礼拝が終わり、空が明るくなり始める頃に、教会や家庭で祝宴が始まります。復活祭の料理は国によって特徴がありますが、約7週間の大斎(先月号参照)の間、肉や乳製品を断っていたため、やはりそれらをふんだんに用いた料理が主体となります。ロシア料理では、パスハと呼ばれるピラミッド状のカッテージチーズのケーキ(写真2)と、クリーチと呼ばれる円筒状の菓子パン(写真3)が有名です。


写真2:パスハ


写真3:教会で作られたクリーチ

また、復活祭の名物といえば何と言ってもイースターエッグでしょう。正教会では、玉ねぎの皮を煮出して赤一色で卵を染めるのが一般的です。しかし、最近は専用の色とりどりのフィルムがあり、卵に巻き付けて熱湯につけると表面に張り付き、美しいイースターエッグが簡単にできるようになっています。いずれにしても、各家庭で作ったイースターエッグを教会に持ち寄り(写真4)、復活祭の礼拝の中で司祭に聖水をかけて祝福してもらい(正教会用語では成聖)、礼拝後の祝宴で他の料理とともに食べます。


写真4:復活祭の礼拝に信者が持参したイースターエッグ

このイースターエッグの発展形として、ウクライナ発祥の伝統工芸品ピサンキがあります。これは中身を抜いた卵の殻に、蝋結染めで幾何学模様や様々な絵を描いたものです。

このように正教諸国では、復活祭は単なる宗教行事を超えて、人々の生活に密着した年中行事となっています。もし機会があれば、実際にそれらの国々で復活祭を体験してみられると良いでしょう。

写真:
  • 写真1:『ニコライ堂の復活祭の十字行』、日本ハリストス正教会教団
  • 写真2:『パスハ』、横浜ハリストス正教会にて筆者撮影
  • 写真3:『教会で作られたクリーチ』、同上
  • 写真4:『復活祭の礼拝に信者が持参したイースターエッグ』、同上
参考文献:
高橋保行『ギリシャ正教』講談社学術文庫

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