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アフリカで出合う偶然 #4 お祝いの色彩

ダカールについてすぐに、セレール族の方々の結婚式に出席するために地方の村へ向かうことになった。でもバスの出発まではまだ時間があったので、喫茶店に入る。乾燥して喉が渇いていたし、とても寝不足だったこともあって、とにかく何か飲むなり食べるなりして身体を起こしたかったのだ。荷物を置き、ソーダを頼み、帽子を外して、ひと息つく。店は大きな通り沿いにあったので、大型トラックやバス、タクシーやバイクといった様々な乗りものが次々に通り過ぎていく様子をぼんやり眺めていた。

目を引くのは色とりどりの“セネ服”を着こなす人びと。おしゃれで名高いセネガルなだけあって、布は色鮮やかでデザインも豊富だ。予定していた村に行く前に、一着もとめることにした。街のちょっとしたお店でも種類が豊富で選り取り見どり。せっかくなので、他の地域でもよく見かける幾何学模様やモチーフが繰り返されるデザインではなく、抽象画のように色が緩やかに混ざり合っている布で、形のシンプルなものを選んだ。アフリカの地ではいつも、色で布や服を選ぶという楽しみがある。ここでは特に鮮やかな色や珍しい色合いを着ていたくなるのは、明るく眩しい光のおかげだろうか。

首都ダカールから長距離バスで約5時間。下車した時には日が暮れていた。次はこちらだよと促され、荷物を抱えてシャレットに乗る。馬車ではあるが、平たい荷台に人も荷物も一緒に乗せられる。縁(ふち)に座ったので、足を投げ出して星空の真下に寝そべる。少し視線を下げると、地平線に月明かりで照らされた木々が影絵をつくっていた。  

目的地のンゲンイェン。大きな平屋があり、次から次に人が集まり、荷物が運ばれる。時々、そこから三角屋根の建物にも人が行き来する。ちょっと離れたところから、賑やかな音や笑い声が聴こえる。巨大なスピーカーが設置してあって、ダンスをしているらしい。子どもたちが大はしゃぎしている様子が見える。少し付近を歩いたものの、まだ寝不足が解消されていなかったので、平屋の部屋の隅に場所を見つけ、バックパックにもたれてすぐに寝入ってしまった。

目を覚まして外に出ると、眩しい太陽の光が空いっぱいに広がっていた。月明かりの中で見えていた巨大な三角帽は、たくさんの食物が蓄えられている小屋のようだ。その前には黒く大きな蓋付き鍋が据えられていて、燃料になる丸っころい牛フンがくべられている。それだけで大宴会の様子が垣間見られる。

結婚式に出席することになったのは、滞在中にお世話になっていた方のご友人がちょうど式を挙げるから、ということで声をかけていただいたからだ。三日三晩続くお祝いなので、親戚や友人はもちろん、村の人からその友人までたくさんの人が駆けつける。その中で、連絡さえ通れば新郎新婦の友人の友人くらいは出席することに問題ないらしい。人との関係や経済的な規模にもよるであろうが、なんとも懐が深い。

そうして集まった人たちは、ただ出席するだけではないらしい。皆が、朝早くからあちこちで様々な準備を始める。女性たちが湯を沸かし、その横で大バケツにどっさり入った玉ねぎやトマトをまな板も使わずに次々に切っていく。手伝おうと思って加わったものの、器用なお母さんたちの前で自分の小さな手は頼りなく、ナイフを入れるたびに怖い怖い、見ている方も怖い怖い、と皆で大笑いした。結局、外皮を剥ぐだけのことくらいしかできず、お手伝いからは程遠かったけれど、料理をしながらおしゃべりするのは何よりも楽しいものだ。そして、この皆で結婚式をつくっているという雰囲気が、とても心地よく感じた。

具だくさんのクスクスが出来上がる。巨大な皿に盛られ、近くにいる人たちとともにいただく。ハイビスカスジュースや、ブイと呼ばれるバオバブジュースも振る舞われた。ジンジャーやバニラビーンズで風味付けがしてあり、甘くて美味しい。スパイシーなクスクスと、甘いジュースとは、いつまでも行ったり来たりできる。子どもたちも、トウジンビエのクスクスを仲良く食べる。

誰もがお腹をいっぱいにしてくつろいでいる時間、新婦にご挨拶できる機会があった。連れられてたどりついた、一際明るい光を放つ部屋。廊下まで溢れている人の列のその先に、ライトに照らされて座る女性。その、美しいこと。髪はきっちりと結いあげられ、パールのついたピアスが揺れる。細かな装飾がついた金色のネックレスとブレスレットが褐色の肌に映える。手の甲にはヘンナで模様が描かれていた。ドレスはコーラルピンクがベースで、ゴールドやベージュ、グリーンの煌びやかな糸で花模様の刺繍が施されている。少しタイトなデザインで、スタイルの良さが際立つ。どこの誰かわからない列席者だろうに、にこやかに歓迎してくれた。人はかくも一瞬で、幸せを共有することができるものなのだ。

平屋前の広場に出ると、楽器や機材が設置され、音出しが始まっていた。それだけでも人々はにこやかに、肩を、腰を揺らす。次第に音がまとまり始め、人の輪ができていく。手拍子が重なり、セレール族の歌が響き渡る。輪の中に飛び込んだ女性が勢いよくリズムに乗ると、歌や踊りとともに笑顔が弾ける。ここぞとばかりに、用意したセネ服に着替えて場に入る。色が溶け込むと、その場の一部にしてもらえるような気分だ。

音楽が、その輪から飛び出していく。いよいよ結婚式が始まると見えて、白く美しい布をかぶった新婦を囲み、艶やかな衣装に身を包んだ女性たちが踊りだした。その圧倒的な華やかさといったらない。ドレスやコーディネートはそれぞれ。スカートにたっぷりとドレープがつくられていたり、細やかなフリルがたくさん付いていたり、金糸で刺繍された布を羽織っていたり、子どもとお揃いのアクセサリーをつけていたり。「あぁ、素敵ね!」と声をかけると、「この日のために新しくしてきたの」「めいいっぱい綺麗にしたいでしょう」とにこやかに返事をしながら踊り進んでいく。その列はますます膨らみ、参列者の盛り上がりは最高潮に達した。

皆で作った料理を味わい、ジュースを飲みながらおしゃべりしてくつろぐ。歌っては笑い、踊っては手を取り合い、喜びの輪が広がる。一人ひとりが参加して作り上げている結婚式は、ますます鮮やかになっていった。

写真:
  • 「朝日のなか」著者撮影
  • 「宴の準備」著者撮影
  • 「お祝いの色彩」著者撮影

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