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Relationship ― ミャンマーと日本の『時間軸』を辿る ~2020年ミャンマー総選挙・・・大勝の果ての見えない未来図

与党大勝の選挙結果

2020年11月8日ミャンマー総選挙が行われ、アウン・サン・スー・チーが率いる与党NLD(国民民主連盟)が単独過半数を維持する結果となりました。詳細については次のようになります。

総選挙は軍人枠166議席と、選挙区の治安悪化を理由に投票が中止された22議席を除く上院161議席、下院315議席が争われました。ミャンマー選挙管理委員会が11月14日に発表したところによると上下両院の定数664議席の最終結果は、与党NLDが改選476議席の8割を占める396議席を獲得し、改選491議席のうち390議席を獲得した2015年の総選挙を上回る数となりました。
一方で最大野党のUSDP(連邦団結発展党)は33議席、少数民族政党は合わせて47議席にとどまることになり、来年以降も引き続きNLDが政権を担うこととなります。

大勝の理由は『信仰心』と『不安』


写真1:本選挙時のNLD支持者

予想していたとはいえ、前回より議席数を上回る結果となったNLD。今回の勝因はどこにあったのでしょうか。

前回のコラムでも、与党NLDはこの5年間これといった政治的成果を積み上げてきたわけではないと述べましたし、私の個人的予想としては、NLDは議席数を減らすのではないかと思っていました。しかしそのような結果とならなかったことには大きく2つの理由があると考えられます。

まず一つ目がアウン・サン・スー・チーに対するミャンマー国民、とりわけビルマ族の『信仰心』です。
アウン・サン・スー・チーのこれまでの生い立ちは勿論のこと、NLDの「顔」として抜群の人気を保ち続け、更にどんなに政治的成果が挙がらなくても「彼女の行動や言葉を信じている」とビルマ族の人々に言わしめてしまう信仰心は、いかに野党が政策論争を挑もうともそれを跳ね除けてしまう強さがあったからなのです。

もう一つは、与党NLDが勝たなければ再び国軍があらゆる権力を掌握してしまうのではという『不安』です。長きに亘る軍事政権を経験してきたミャンマー国民にとって、昔帰りは一番不安に思うことなのです。

選挙当日の投票時、ミャンマー国軍の最高司令官ミン・アウン・フラインは、「将来、軍と⼿を組める政党に⼊れた」と語っており、また最⼤野党であるUSDP(連邦団結発展党)は、治安悪化で投票できなかった選挙区があることに対し11月11日の声明で、「国軍の協⼒を得たうえで総選挙をやり直すべきだ」と主張しています。そして前述のとおり、議会には国軍から任命された『軍人議員』が存在し、議会運営に目を光らせています。

こうした状況から、選挙におけるNLDの大敗はミャンマー国軍の復権につながるのではないか、と不安に思った有権者がまだ数多く存在したことによって、NLDへと票が流れたとも考えられます。

見えない未来図と深まる分断


写真2:開票作業を行う選挙管理委員

治安悪化で投票中止となった選挙区への対応が残っているものの、与党大勝で終わった今回の総選挙の結果は、決して諸手を挙げて喜んでよいものではありません。

アウン・サン・スー・チーは確かにビルマ族にとっては抜群の人気ですが、所謂「ロヒンギャ」問題で国際的評価は落ちる一方であり、また国家独立以来自治を求めてきた少数民族の間での人気は高いとは言えません。

前回の総選挙時、少数民族の彼らとは、約半世紀以上続いてきた国軍による政治支配を終わらせるために共闘しました。しかしこの5年間において民族融和などを一向に進めないNLDに幻滅し、今回は袂を分けて選挙に挑んでいました。その結果、確かに少数民族が多く住む地方では彼らは議席を伸ばす形となりましたが、州首相や地方の責任者を指名するのは中央政府であり、今後も少数民族にとって良い環境にはならない状況が続くことが予想されます。

またアウン・サン・スー・チーやNLDを『信仰』している人々がいる一方で、「NLDが政権を取れば世の中が変わると思っていたがそうではなかった」、「NLDは異なる意見の人々に耳を傾けようとはしない」という批判も多くなってきており、とりわけ若者の間で現政権にシビアな態度を示す動きが出はじめています。

実際、武装勢力と国軍が衝突したラカイン州におけるインターネット遮断に抗議活動を行った若者が逮捕されたり、政府を批判した市民活動家や報道記者などの逮捕・訴追が相次いで行われており、民主化の動きとは完全に逆行しているという批判も出てきています。
今回の選挙では、「全てを把握し、⽀配しないと気が済まない」アウン・サン・スー・チーに見切りをつけNLDを離党し、新党を結成して選挙戦に挑んだ者も少なくありません。

更に付け加えれば、『ポストアウン・サン・スー・チー』が全く見えないという課題も残されています。地元紙の報道では、NLD政権2期目の途中でアウン・サン・スー・チーは第一線から退くのではないかという観測も浮上していますし、「スー・チー氏が政界を去ればNLDは瓦解する」という見方も出ています。

スー・チー氏は以前報道のインタビューに、NLDには確立した党内序列があり、2人の副党首が「ポストアウン・サン・スー・チー」のミャンマーを指導してゆくことを示唆していました。しかし副党首の何れも未来を担う若手政治家ではない状況であり、本格的な世代交代とは程遠い状態であるのです。

新型コロナ対応にも後手を踏み、現在も罹患者対応、経済停滞に苦しむミャンマーにおいて、再び国軍の復権を願う一部勢力や、より過激な武装闘争を展開しようとする民族勢力に利するような環境に陥らないためにも、それぞれの社会階級に目配りをしたより明確な政策の提案、施行を行い、「ポストアウン・サン・スー・チー」の未来図をはっきり示した政権運営を行うことがNLD政権2期目の課題となるでしょう。

(続く)

資料:

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