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東方正教会 ― 知られざるキリスト教文化圏
Ⅵ 正教会と歴史を訪ねる旅 ― 2. ジョージア②

ジョージアの首都トビリシは、国土を東西に横断しているムトゥクヴァリ川に沿った人口110万人の大都市です。古くからシルクロードの宿場であった歴史ある街で、5世紀にイベリア王国のワフタング・ゴルカサリ王が都に定めました(それまでの首都は隣のムツヘタ)。帝政ロシア領だった19世紀には、プーシキンやトルストイら多くのロシアの文豪や文化人が好んで訪ねた場所としても知られています。

トビリシという地名は、古いジョージア語で「温かい」を意味するトピリに由来すると言われていますが、それには次のような伝説があります。
ゴルカサリ王が鷹狩りをしていたところ、鷹に追われた雉が泉の中に落ちました。従者が獲物を拾いに行ってみると、その泉の水は湯、すなわち温泉でした。王はその温泉と周囲の景観が大変気に入り、ついに移り住むことにしました。そして街の名も温泉にちなんでトビリシと名付けられました。現在でもトビリシの旧市街には温泉浴場がたくさんあり、市民や観光客が入浴を楽しんでいます。

さて先月号でも述べたとおり、ジョージアは4世紀初めに東方正教を国教として以来、キリスト教文化が栄えてきました。486年にジョージア正教会は独立教会としての地位を認められ、以来総主教を筆頭とする教会組織を保持してきました。現在のイリヤ二世総主教は現在85歳で、1977年から40年以上も総主教の地位にあり、ジョージア人から大変尊敬されています。

その総主教座の聖堂、いわばジョージア正教会の総本山ともいうべき聖堂がツミンダ・サメバ大聖堂(写真1)です。ツミンダ・サメバとはジョージア語で、キリスト教用語の「聖なる三位一体」の意味です。聖堂は2004年に完成した新しいもので、地上から約70mの高さがあります。モスクワの救世主大聖堂、ベオグラードの聖サワ大聖堂と並ぶ正教会では世界最大級の聖堂で、中に入ると壮大さに圧倒されます。


写真1:ツミンダ・サメバ大聖堂

ツミンダ・サメバ大聖堂が完成するまで長く総主教座聖堂だったのは、旧市街にあるシオニ大聖堂です。この聖堂は6世紀末の創建ですが、ペルシャやトルコ、モンゴルなどの度重なる侵攻で壊され、現在の建物は13世紀に建てられたものです。内部の壁画のイコンが大変見事です。また宝物としてジョージアにキリスト教を伝えたニノ先月号参照)が愛用していた十字架が収められており、そのレプリカがイコノスタシスに飾られています(写真2)。ちなみにこの十字架は、横棒が下を向いた独特の形状だったため、現在ではこのデザインの十字架をグルジア十字と呼んでいます。


写真2:ニノの十字架

旧市街には5世紀に建立され、帝政ロシア時代に革命運動で逮捕されたゴーリキーが幽閉されていたことで有名なメテヒ教会(現聖堂は1289年に再建)や、6世紀に建立されて今も残るトビリシ最古の聖堂のアンチスハティ教会など、歴史遺産的な教会がたくさんあります。家々はヨーロッパよりも、むしろペルシャやトルコに相通じるデザインで、とてもエキゾチックな街並みです(写真3)。


写真3:トビリシ旧市街の商店

街の景色を眺めるなら、街外れにある標高727mのムタツミンダ山か、旧市街の近くにある5世紀の城塞のナリカラ要塞に登ってみることをお勧めします。ムタツミンダ山にはケーブルカー、ナリカラ要塞にはロープウェイが通っていますので、容易に行くことができます(写真4)。


写真4:ムタツミンダ山から見た風景

これらのトビリシの歴史的な街並みや教会を見て、さらにジョージアの郷土料理やワインを楽しめば、忘れられない旅になることでしょう。ジョージアの料理とワインについては、今後改めてご紹介します。

写真:
  • 写真1:「ツミンダ・サメバ大聖堂」、筆者撮影
  • 写真2:「ニノの十字架」、シオニ大聖堂にて筆者撮影
  • 写真3:「トビリシ旧市街の商店」、筆者撮影
  • 写真4:「ムタツミンダ山から見た風景」、筆者撮影

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