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東方正教会 ― 知られざるキリスト教文化圏
Ⅵ 正教会と歴史を訪ねる旅 ― 2. ジョージア⑥

今月は教会などの話題を離れてジョージアのワインについてご紹介しましょう。

ジョージアのあるコーカサス地方は8000年の歴史のあるワイン発祥の地」として広く認識されています。現代でも行われているジョージアの伝統的なワイン製法は、クヴェヴリ(写真1)という素焼きの壷を地中に埋め、そこにブドウを入れて自然発酵させるものです。現在と同じ形状で最古のクヴェヴリは、紀元前6000年頃のものが発見されていますので(http://www.afpbb.com/articles/-/3150409)、それだけ長期間にわたって同じワイン製法がジョージアで生き続けてきたといえます。ちなみにこのクヴェヴリを用いたジョージアの伝統的なワイン製法は、2013年にユネスコの世界遺産に登録されています。


写真1:20世紀初頭のクヴェヴリ

正教会で最も重要な祭儀はパンとワインを捧げる聖体礼儀2016年12月号参照)であり、その意味で教会にワインは必要不可欠です。そのため、ジョージアの教会や修道院の中ではワイン造りが当然のこととして行われてきました。
私が訪問した東部のカヘティ地方にあるアラヴェルディ修道院は、6世紀創立の歴史ある修道院ですが、敷地内は広々としたブドウ畑になっており、ワイナリーと言っても良いような佇まいでした(写真2)。ちなみにこのカヘティ地方は、ジョージア国内のブドウ畑の7割が集中しており、カヘティ産のブドウの品種であるサペラヴィは、ジョージアワインを代表する原料となっています。


写真2:アラヴェルディ修道院のブドウ畑

また、私はクタイシのバグラティ大聖堂2018年4月号参照)で聖体礼儀に陪祷(聖職者として礼拝の司式に参加すること)しましたが、そこで用いられていたのも市販のワインではなく、ペットボトルに詰めた自家製のものだったのが印象的でした。

ジョージアでは、ワインを造っているのは醸造業者や修道院だけではありません。一般家庭でも庭木にブドウを植え、自宅でワインを造って飲むことが当たり前に行われています。私はズグディディという西部の街で、地元の方の家に呼ばれて食事をご馳走になる機会がありましたが、もてなしのためにふんだんに出てきたのはその家で造られた文字通りの「ハウスワイン」でした(写真3)。我が国では法令上、一般家庭で酒類を醸造することはできず、よって誰かの家で自家製の「漬物」や「味噌汁」をいただくことはあっても、手作りの酒を出されることは考えられないので、まさに社会や文化の違いを感じました。


写真3:一般家庭のハウスワイン

ジョージアを訪ねたら、ぜひこのワインと合わせて郷土料理を味わっていただきたいと思います。特に有名なものとしては、中国料理の小籠包によく似たヒンカリ(写真4)や、中にチーズが入った平たいパンのハチャプリが挙げられますが、他にもいろいろな料理があります。ジョージアは農業や畜産が盛んなだけあって、肉や乳製品、野菜や果物が安くて大変豊富なため、料理のバラエティが多いものと思われます。さらに味付けもあまり凝ったものでなく、塩やハーブ類が主体で、西欧料理よりも日本人の口に合うように私には感じられます。


写真4:ヒンカリ

これらのジョージアワインと食文化を紹介する本として昨年、島村菜津・合田泰子・北嶋裕共著『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)が出版されています。私自身も参考にしていますが、興味のある方にはご一読をお勧めします。

さて、これまで連載でご紹介してきたジョージアの歴史遺産とワインを実際に堪能するイベントツァーが10月に企画されており、私がご案内役を務めさせていただきます。(http://keynoters.co.jp/eventDetail/georgiatour2018/)短い日程とはいえ、ジョージアの魅力を十分にお伝えできるものと確信していますので、多くの皆様のご参加をお待ちしております。

写真:
  • 写真1:「20世紀初頭のクヴェヴリ」、ジョージア政府観光局サイトより転載
  • 写真2:「アラヴェルディ修道院のブドウ畑」、アラヴェルディで筆者撮影
  • 写真3:「一般家庭のハウスワイン」、ズグディディで筆者撮影
  • 写真4:「ヒンカリ」、トビリシで筆者撮影

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