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Relationship ― ミャンマーと日本の『時間軸』を辿る ~ミャンマーとの友好関係の構築・・・昭和時代その4~

立ちはだかるアジアの急変

前回は地獄の海南島での訓練の日々と、そこで養われた日本人とビルマ人との絆について書きました。今回は時間軸を、1941年7月ごろ、海南島での訓練が終了した時点に戻します。

南機関の機関長であった鈴木大佐には一つ明確なビジョンがありました。
海南島で訓練をした30人のビルマ青年を基盤として義勇軍の規模を拡大し、タイからビルマ南部に浸透、イギリス軍への蜂起を促すとともに一部地域を支配、そこを手掛かりにしてビルマ独立を宣言し、臨時政府を樹立する・・・というものでありました。

昭和16年7月、海南島での地獄の訓練は終了し、鈴木大佐以下南機関員、そしてアウン・サンら30人のビルマ青年たちは、時をおかずしてビルマ浸透作戦の命令が大本営から下されるものと心待ちにしていました。ところが、待てど暮らせど大本営からの命令は下されません。

鈴木大佐に対して、アウン・サンらビルマ青年たちは、何故命令が下されないのかと祖国凱旋を急ぐ気持ちを訴え続け、そして南機関の兵士たちも心通じたアウン・サンらの心情を慮って、大本営の命令が無くとも我々だけで作戦を実行すると息巻いている。

一方で何に不満や疑念があるのか全く分からない軍上層部の待機命令と不条理な指示を受ける日々に忙殺される、まさに板挟みの状況になり、鈴木大佐を大いに悩ませることとなりました。
いつの時代においても「中間ポジション」というのは、スッキリと解決しない悩みを抱えつつ日々の営みを送るものなのでしょうか。

1941年の夏というのは大日本帝国を中心としたアジア情勢は、まさに歴史の大きなうねりの中に放り込まれたような時期だったと考えられます。
同年6月にはオランダが植民地であった蘭印(現インドネシア)から日本への資源輸出を停止します。

アメリカは同年7月に対日資産凍結令を発令すると、それにイギリス、オランダが追従します。
そして、8月になるとアメリカは石油の対日輸出全面禁止に踏み切ります。そして、日中戦争も継続しています。
こうして所謂皆さんが歴史の授業で習った『ABCD包囲網』が完成し、当時の大日本帝国はアジア地域において崖っぷちまで追い詰められたのです。

アウン・サンらの気持ちも分かる、一緒に試練を乗り越えてきた南機関の同僚たちの気持ちも痛いほどわかる。しかしながら今の大日本帝国の状況を鑑みれば、感情に任せて軽挙妄動に出ては国家の存亡にかかわる大失態となるかもしれない・・・鈴木大佐はそう考えたに違いありません。ここは中央の情勢を見守るしかなかったのです。

三亜訓練所に待機していた南機関員、そしてアウン・サン達は、その後台湾の玉里やタイのバンコクなどを転々として最終的にはサイゴンに移されることとなり、そのうちのわずか2名の者がタイ国境からビルマに初めて侵入し、成功したのが1941年12月3日のことでした。

ビルマ独立義勇軍(BIA)結成、そして進撃

1941年12月31日、タイの首都バンコクにおいて、これまで秘匿とされていたビルマ独立義勇軍(BIA)が発足を記念する閲兵式を行います。

大東亜戦争の開戦を受けてついに公然と姿を現わしたのです。閲兵式においてアウン・サンはこう述べています。
『兵士諸君。本日誕生したビルマ独立義勇軍は、その兵力・装備・熟練度に関しては、決して第一級の軍隊ではない。しかし、その精神力、独立のために命すら捧げようという強固な決意までを合わせて考えるならば、これはもう素晴らしい力を備えた軍隊であるといっても過言ではない。』
(ボ・ミンガウン著『アウンサン将軍と三十人の志士』p106より引用)

大みそかに行われたこのセレモニーをもって義勇軍が誕生し、近代ビルマ国軍が歴史上に誕生した瞬間でもありました。
この後、南機関は大本営直属から南方軍司令部の所属となり、そして開戦と同時にタイに進駐した帝国陸軍第十五軍に組み込まれることとなります。
しかしながら、南機関という特務機関は機関員の日本軍人・軍属74人が所属していたが、本体とは別組織というという扱いでした。

アウン・サンはBIAの参謀総長、鈴木大佐はBIA司令官という肩書を持つことになりますが、
発足に際して志願入隊したタイ在住のビルマ人は約200人で、尚も“小さな軍隊”であったが、1世紀以上も英国によって武器を取り上げられていたビルマ人にとっては画期的な出来事でした。
そして、BIAは誕生の余韻に浸る間もなく、タイ国境を越えて英領ビルマに進撃して行くことになります。

(続く)

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