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Our World through Music~
甘い音と巡る世界の響き~Vol.27

一流の生き方、ラヴェルの場合

今回は、先月のドビュッシーに続けて同じ時代のフランスの作曲家、ラヴェルについてご紹介しましょう。珠玉の音楽は、どれもが真珠のようです。ピアノ、オーケストラ、室内楽作品、驚くべき多彩な表現がそこにあります。

ラヴェルは、1875年スペインに近いフランスのシブールに生まれました。父親はスイス出身、母親はバスク地方の人です。生後間もなくパリに移住し、ラヴェルは音楽の才能を伸ばしていきます。

では、まず彼の代表作「亡き王女のためのパヴァーヌ」をお聴き下さい。ラヴェル本人による演奏です。

パヴァーヌとは、古い時代のゆったりとした舞曲の一つです。亡き王女とありますが、古い時代のスペイン絵画に描かれた王女から想起して作曲された作品です。我々で言えば、万葉集を読むような感覚でしょうか。万葉集を読むときに、せかせかした雰囲気を感じることはあまりないと思います。それと似た表し方のような感じがします。ちなみに、現代の演奏家がこれを演奏するときには、もっとゆったりとしたテンポであることが多いのですが、ラヴェルはわりと速めで弾いています。

ラヴェルは、14歳でパリ音楽院に入学。順風満帆かと思えばそうでもありません。
17世紀に設立されたローマ賞。優秀な芸術家は、ローマのメディチ荘のアカデミーで学ぶ権利が得られたのです。前回ご紹介したドビュッシーも得たのに、なぜかラヴェルは何度もこれに落ち、一度も選ばれることがありませんでした。当時既に先ほどの「亡き王女のためのパヴァーヌ」や「水の戯れ」で人気となっていたにも関わらず、です。ラヴェル事件と呼ばれたこの出来事は、実力ではなくコネで選ばれた受賞者がいるという政治的なもので、ロマン・ロランが文化大臣に訴え、音楽院の院長が更迭されることとなったほどの大事件でした。

ここで、「水の戯れ」をお聴きください。演奏は、ラヴェルとも親交があったアルフレッド・コルトー。フランスの名ピアニストでチェロのカザルスとヴァイオリンのジャック・ティボーと組んだカザルストリオで有名な人です。

それと隠れた名曲。弦楽四重奏曲ヘ長調です。
演奏は、ジュリアード音楽院で結成されNYを拠点に世界的に活躍した東京カルテットです。

そして、バレエ作品として書かれた「ボレロ」。当時一流のバレリーナ、イダ・ルービンシュタインの依頼で書かれました。

ラヴェルは、バスクの血が入った母をとても愛し、スペインの風土を音楽で表そうとしました。先ほどのボレロも、スペインのリズムです。そして、この「スペイン狂詩曲」。冒頭の半音の動きはスペインの夏、うだるような暑さを表したと言われます。

ここで、天才たちのエピソードをご紹介しましょう。
まだまだ発展途上中のアメリカから、当時時代の最先端を走っていたパリを訪れたガーシュインは、ラヴェルに作曲の教えを請いました。
このとき既に成功を収めていたガーシュインですが、本場の音楽に触れたかったのでしょう。そこにラヴェルはこう答えたと言います。
「君はもう一流のガーシュインなのに、なぜ二流のラヴェルになろうとするの?」

ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」をお聴き下さい。

ラヴェルは大変お洒落な人で、旅行に行く際もスーツケースを持ちきれないほど持ち歩いたといいます。朝食のテーブルにつくにも、頬紅をさし香水をまとい、常に紳士的な服装と振る舞い。生き方も、彼の音楽同様センスに満ちたものにしたかったのでしょう。友人もとても多かったようです。

次にご紹介する作品は、第一次世界大戦で片腕をなくしたピアニストのために書いた「左手のための協奏曲」です。

もう一つ、ラヴェルが書いたピアノ協奏曲です。ラヴェルの都会的なセンスがよく表れている作品です。
私は今回の執筆のために電車で移動している間にこの曲を聴いていたのですが、ちょうど2楽章でなんとも感慨深い趣に囚われました。というのは、山手線でちょうど新橋駅にさしかかるころで、眼前に広がる街の様子とこの柔らかい旋律とがまるで映画のワンシーンのように感じられたのです。

アメリカにも行き、ストラヴィンスキーや上述のルービンシュタイン、他にも数々の著名人たちに囲まれたラヴェル。さぞ幸せな人生であったかと思えますが、その最後は脳疾患による失語症や記憶障害により、自分の作品も忘れ、字を書くこともできなくなるほど気の毒な状態が続き、そのまま寂しく亡くなりました。
とても可哀想な最期ですが、今でも私たちは彼の作品を愛すことで、彼を知ることができると思います。ここにご紹介できない逸話や音楽がまだまだたくさんあります。
最後に、私が一番好きな彼の作品をお聴きください。小さなピアノ曲「ボロディン風に」です。

写真:
動画:

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