Our World through Music~
甘い音と巡る世界の響き~Vol.21
2020-01-30
音楽を超え、文学にまで愛されたヴァイオリニスト
今回はスペインの作曲家、ヴァイオリニストについてご紹介します。パブロ・デ・サラサーテ(1844~1908)。数多くの作曲家たちに作品を献呈され、本人も歴史的な名曲を残した素晴らしいヴァイオリニストです。その音楽はジャンルを超えて表現されました。
それでは、今も尚、人々が愛してやまない彼の芸術についてお伝えしていきましょう。
サラサーテは、スペインのバスク地方の生まれです。音楽隊の指導者だった父親から手ほどきを受け、5歳からヴァイオリンを始めました。天才少年は、すぐに父の手を離れ10歳で公開演奏会、12歳に王妃の前で御前演奏、そしてパリ国立音楽院へ留学します。その後はパリを本拠地とし西欧各国、またアメリカから中近東、アフリカまで演奏に旅立ちました。
彼の残した作品で最も有名な一曲をまずお聴きください。
『ツィゴイネルワイゼン』です。
これは、本人による自演盤で、中間部は途中でカットしています。カットされた箇所は静かな物悲しい旋律なのですが、そこのところで伴奏者に向かって「ここはカットしよう」と話しているのですね。その話し声も録音に入っています。
サラサーテは、この曲の他にスペインの情緒溢れる作品をいくつも残しています。こちらはフラメンコの靴音を伴奏で表した『サパテアード』という、明るいムードたっぷりの陽気な音楽です。同じく自演盤で。
他にもアンダルシアの音楽や、バスク奇想曲、マラゲーニャといった地方色豊かなスペイン舞曲、フランスのビゼー作曲のオペラ『カルメン』をヴァイオリンとオーケストラの華麗な作品に仕立て上げた『カルメン幻想曲』など、数多く残しています。
その中で私が特に好きなのは次の曲です。冒頭の旋律は心に沁みる郷愁感、一転して華やかな楽しい超絶技巧。タイトルの「タランテラ」とは毒蜘蛛の踊り、という意味です。
『序奏とタランテラ』
さて、この人は周囲の作曲家たちからいくつもの作品を献呈されました。
フランスのサン・サーンス(『動物の謝肉祭』の『白鳥』がとても有名)からは、これまた名曲『ロンド・カプリチオーソ』、同じフランスのラロから『スペイン交響曲』。交響曲とありますが、スペイン風のヴァイオリン協奏曲となっており、当時のパリにおいてスペインブームの先駆けとなりました。
では、この2曲を続けてお聴きください。『ロンド・カプリチオーソ』は今世界でも大活躍している若手日本人ソリスト三浦文彰さんの演奏です。
『序奏とロンド・カプリチオーソ』
『スペイン交響曲』
ちなみに、献呈された中での知られざる名曲というと、ドイツの作曲家ブルッフによる『スコットランド幻想曲』です。スコットランド音楽博物館という民謡集から題材を得たこの曲は、ヴァイオリニストにとっては非常な難曲、オーケストラはあたかも交響曲のようで、それに匹敵する芸術性を持っている人でないとなかなか演奏しえない大曲です。
さて、このように本人のみならず周囲にも名曲にあふれた人生だったサラサーテですが、実は、とある名作文学にも登場しています。ご存じでしょうか?
それは、コナン・ドイル作、かの有名なシャーロックホームズシリーズの『赤毛連盟』。この中でホームズがワトソンとサラサーテの演奏会に出かけるシーンがあるのです。自身もヴァイオリンを大変弾きこなしたという(設定の)ホームズがわざわざ出かけるくらいですから、当時よほど人気だったのでしょうね。
もう一つは、わが国日本の小説家内田百閒の『サラサーテの盤』です。この作品は、冒頭でご紹介した『ツィゴイネルワイゼン』のサラサーテ本人による自演盤、カットした例の箇所の話し声が、亡くなった夫によるあの世からのメッセージだと思い込む未亡人のストーリーです。
有名になってからも故郷バスクでの夏祭りサン・フェルミン祭には顔を出し、メイン会場のカステーリョ広場に面したホテルから民衆に向かって演奏を聴かせたというサラサーテ。町には今もサラサーテの名を冠した遊歩道が残っています。作曲家にも町にも愛された人物でした。
2020年3月12日に、この『サラサーテの盤』のような、名作文学に描かれた音楽を小説家による解説と演奏でお聴き頂くコンサートを開きます。サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』の他、ベートーヴェン『クロイツェル・ソナタ』(トルストイ)などを演奏します。ジャンルを超えた芸術性をお楽しみ頂ければ幸いです。
- 写真:
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- Basque, San Sebastián
- 動画:
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