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Our World through Music
~甘い音と巡る世界の響き~Vol.4

色彩豊か、オーケストラのようなヴァイオリンの音色

今回は、歴史的ヴァイオリニストをご紹介します。
ベルギー出身のユダヤ人ヴァイオリニスト、作曲家。ウジェーヌ・イザイ。

19世紀にヨーロッパからアメリカにかけて活躍したヴァイオリニストで、この時代の多くの音楽家たちが「イザイ詣で」したと言われています。とても大きな体躯はその豊かな音色を彷彿とさせるもので、実際に彼の演奏はまるでオーケストラのような音がした、と言われるほどです。

今年は、イザイ生誕160周年。
ベルギーに生まれ、ユダヤ人としての音楽とクラシック音楽の伝統、そしてヴァイオリニストの系譜をつないでいった大音楽家についてご紹介しましょう。

イザイは、1858年、ベルギーのリエージュに生まれます。
(ちなみにこのリエージュという都市では、国際音楽祭が開かれており、前回の記事でご紹介したピアソラの「タンゴの歴史」はこの音楽祭の委嘱作品でした。)
祖父は趣味でヴァイオリンを弾いていたようです。それは、クラシックというよりフィドルといった、街中で人を楽しませる雰囲気のもの。アイルランドのアイリッシュ音楽やジプシー音楽などのイメージ、と言っても差し支えないかもしれません。

イザイは、才能ある少年として育っていきますが、その中でも私が特に心惹かれるエピソードがあります。
それは音楽院とそりが合わず自宅にいたイザイと、当時の名ヴァイオリニスト、アンリ・ヴュータンとの出会い。

「おもしろいのは、アンリ・ヴュータンとの偶然の出会いである。あるとき、この高名なヴァイオリニストが通りを横切ろうとすると、自分の曲が聞こえてきた。ある建物の地下からのようだ、ただ聞こえてきただけならいい。よく知られている曲なのだから。ところがヴュータンは演奏に衝撃を受けたのである。さっそく、音のしている建物まで行って、扉を叩き、誰なんだ、あの演奏は?と尋ねる。こうして、ヴュータンはウジェーヌと出会い、音楽院へ再登録するようにと本人に、また音楽院に話をする。」

(株式会社アルテスパブリッシング、「無伴奏 イザイ、バッハ、そしてフィドルの記憶へ」、小沼純一著)

このように巨匠の手によってイザイは段々と頭角を表していきました。イザイの名プレイヤーぶりは、死後その名を冠した「イザイ国際コンクール」が開かれたということ、そしてそれが現代では「エリザベート国際音楽コンクール」と名を変え開催され続けていることからもうかがい知ることができます。

ところで、クラシック音楽の歴史というと、
まず作曲家がいて、それを演奏する人、聴く人、という図式を思い描くものですが、このイザイの時代くらいまでは、作曲する人と演奏する人が同じということがよくありました。
つまり、作曲家は演奏する人であり、元々抜群の演奏家で演奏においても天才を発揮していた人が曲を書いていったのです。

17~18世紀に活躍した、J・Sバッハはオルガンの演奏家であり、そのあとのモーツァルトもベートーヴェンもまずピアニストとして活躍しています。連載1回目でご紹介したロシアの作曲家ラフマニノフも、最初は名ピアニストとして名を馳せたのでした。
現代では、作曲と演奏は分業制のようになっています。そうなっていった理由については、またの機会にお話しするとしましょう。

イザイは、過去の偉大な作品の優れた演奏者として有名になります。
過去の作品に触れることで、クラシックの優れた部分は彼自身の一部となり、それをベースに彼のルーツであるユダヤの血が流れた音楽を書きました。
その最も代表的なものとして「無伴奏ヴァイオリンソナタ」があります。これはJ・S バッハの独奏ヴァイオリンのための作品、「無伴奏ソナタとパルティータ」へのオマージュとして、バッハが書き残した全6曲と同じく6つのソナタとなっています。

イザイはこの作品を当時の名ヴァイオリニストたちにそれぞれ献呈しました。
自分の中に育まれたものをヴァイオリニストたちに受け継いでもらいたかったのかもしれません。

このソナタの中から、とてもかっこいい一曲をお聴きください。
イザイ作曲 無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番バラード

お聴き頂くと、いわゆるクラシックのイメージとは違った印象を受けられるかと思います。
イザイの作品の特徴として、
アジアや中東で多く使われる響きが多用されています。それは、彼がユダヤ人であることと、実はヴァイオリンが自然に鳴りやすい響きであることが主な理由かと思われます。

ユダヤの人々は、ご存知の通り大変複雑な歴史を有しています。音楽の世界でも同じで、歴史の流れの中で、国を持たない民族として常に翻弄されてきています。そのぶん身を守る必要からか、とても優秀で記憶力の良さや言語能力の高さを有する世界屈指の民族とされています。
世界の潮流の中心からちょっと外れたところにいる。それがこの響きにも現れているかのように思います。

次に、イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタのインスパイア元であると言っても過言ではないであろう、バッハの無伴奏ヴァイオリンの作品から、
無伴奏パルティータ第2番からシャコンヌをお聴きください。

バッハがこれを書いた主な理由は、作曲当時、弦楽器の名手がいる宮廷に勤めていたからのようです。名手がいることで刺激され作曲することはバッハ以降の作曲家にもよくあることでした。
バッハは献呈こそしませんでしたが、刺激を受けて産み出した時点で、
ある意味同僚ヴァイオリニストに捧げたようなものと思っていいかもしれませんね。

最後に、イザイの孫弟子に師事された私の先生が、イザイについて伝え聞いた内容をいくつかご紹介しておしまいとしましょう。

「イザイはとても音楽性豊かで、音色が豊富で、レッスンに行くとヴァイオリンで伴奏してくれるその音はまるでオーケストラのようだったそうです。恐ろしく頭がよくて記憶力が良かった。5か国語は話すことができた。大変な大食漢で、イザイが行くとレストランの冷蔵庫がすっからかんになるほどだったとか。ユダヤ人として生きることが難しかった時代において、自分のルーツを隠さずにいて、名前のウジェーヌは、ユダヤ、という言葉から来ているのではないか。」

2018年8月24日、私もバッハとイザイの作品を演奏します。ヴァイオリニストにとって生きる道筋でもある作品、この歩みを知って頂ければ幸いです。

動画:

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