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食から読み解く中央アジア
第8章 中央アジアのお菓子

中央アジアには、前回までに取り上げてきた様々な料理の他に特徴的なお菓子がいくつかあります。

まず紹介したいのは、ハルヴァです。見た目は灰色の大きな塊で、正直なところあまり美味しそうには見えません。これは、小麦やナッツなどの粉末に油と砂糖を混ぜてペーストにして固めたものです。お土産用に小さくパック詰めされたものもありますが、バザールで 大きな塊から必要な分量だけカットして買うのが普通です。

ハルヴァは、デザートとして食べられる他、儀礼食として用いられたり、朝食代わりに食べられます。麦こがしに似た食感ですが、口に入れるとほろほろと崩れ、それでいてしっとりしていて見た目からは想像できないほど美味しく感じます。

このお菓子は中央アジアだけでなく、西アジア、バルカン半島、北アフリカなどイスラームが影響を及ぼした地域はもちろん、ロシアや東欧でも見られます。このハルヴァという言葉にはアラビア語で「甘菓子」という意味があります。

次に紹介するのはパフラヴァです。パイ生地を何層にも重ねて、間にナッツやくるみを挟み込んで焼いたとても甘いお菓子です。あらかじめ四角形に切り分けられており、層を成した断面の美しさが特徴です。

中央アジアではパフラヴァという表記ですが、他の地域では「バクラヴァ」という読み方が一般的で、『千夜一夜物語』(アラビアンナイト)にも登場します。このお菓子は中央アジアだけでなく、西アジア、バルカン半島、北アフリカなど、イスラームが影響を及ぼした幅広い地域でも見ることができるので、パフラヴァの伝播にはやはりイスラーム文化が深く関わっていると言えます。

イスラーム世界は飲酒が忌避される一方で、古くから優れた製糖技術を持っており、その砂糖を使ったお菓子はイスラームの広がりと共に各地に伝えられたと考えられます。

しかし複雑な交流の歴史を持つ中央アジアでは、さらに別の背景を持つお菓子も見ることができます。その一つが、チャクチャクです。チャクチャクは、小麦の練り粉を油で揚げ、蜂蜜を絡めて固めたお菓子で、日本のカリントウに近いものです。歯ごたえや味わいも似ています。チャクチャクは、かじる時の音が「チャクチャク」と聞こえることから付けられた名前だといわれています。

先に挙げた二つのお菓子と違い、チャクチャクはキルギスやカザフスタン、またロシア連邦内の共和国であるバシコルトスタン、タタールスタンなどでよく見られます。この地域は中央アジア北部からロシア内陸部に広がる草原地帯を勢力範囲とした遊牧民の世界でした。このことから、中央アジア南部のオアシス地帯を中心としたイスラーム文化由来のハルヴァやパフラヴァといったお菓子と違い、テュルク、モンゴル系遊牧民族などによって広められた可能性があります。

チャクチャクの由来と歴史ははっきりしないのですが、遊牧民族が東から西に移動していったことから、中国のお菓子の歴史にも留意する必要があると思います。チャクチャクの分布する地域を見渡すと、いわゆる「シルクロード(オアシスの道)」とは別の、もう一つの東西交流の経路「草原の道」の姿が浮かび上がってきます。これが、先に挙げたハルヴァやパフラヴァがイスラームの高度な製糖技術と共に中央アジアの「オアシスの道」を中心に広まったことと対照的なものであることを示しています。

現在の中央アジアでは、もちろんチョコレートなどの現代的なお菓子も普通に見ることができますし、都市の洒落たカフェでは西欧風のケーキを食べることもできます。しかし、お菓子の背景に注目して思いを巡らすと、過去と現在と地域を超えたダイナミックな文化の十字路を見出すことができるのではないでしょうか。

写真:
  • 「ハルヴァ」著者撮影
  • 「パフラヴァ」著者撮影
  • 「チャクチャク」著者撮影

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