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東方正教会 ― 知られざるキリスト教文化圏
Ⅵ 正教会と歴史を訪ねる旅 ― 2. ジョージア⑤

これまでジョージアの中心的な都市をご紹介してきましたが、今回は地方の歴史遺産を二か所ご紹介しましょう。
その一つは南部のトルコ国境近くのヴァルジアの洞窟都市です(写真1)。これは12世紀後半に国王ギオルギ三世が、ペルシャの侵略に対抗するために造った洞窟の要塞がもとになっています。ギオルギ三世の娘のタマル女王の時、中世ジョージアは黄金時代を迎えますが、彼女はこの洞窟を拡充して修道院と市民の居住スペースを造り、数万人の人々が暮らせるような地下都市を建設しました。


写真1:ヴァルジアの洞窟都市

実際に訪ねてみると、岩山を削って造った数千もの小部屋が並んでおり、しかも各部屋に地下水の水道が張り巡らされています。また、敵が襲来した時の避難路がアリの巣のように造られています。
面白いのは、どの部屋の床にもワインを貯めておくための窪みが掘られていることです(写真2)。ジョージアは「ワイン発祥の地」として知られていますが、このような不便な地下生活でもワインは欠かせなかったようです。


写真2:ワインを貯蔵した窪み

この洞窟都市は1283年の大地震で大きく崩れ、山の中に隠れていた洞窟が外に露出しました。そして1551年、ペルシャの侵略で占領されて廃墟となってしまいました。しかしこの遺跡は、ジョージアの人々が重機も何もない800年以上も前に、人力だけで岩山を都市に変えた奇跡的な出来事を今も語り伝えるものです。

もう一つは北部のロシアとの国境の街ステパンツミンダにあるツミンダサメバ教会です(写真3)。


写真3:ツミンダサメバ教会

この教会は14世紀、標高2160mのクヴェミムタ山の頂上に建てられました。ステパンツミンダの市街地から教会まで行くには一般車両では不可能で、登山道を徒歩または4WDの車で登るしか方法がありません。ガードレールも何もないデコボコの山道を登って行くのは肝を冷やしますが、その代わり教会にたどり着くと、コーカサスの山々を360度見渡せる素晴らしい眺めが待っています。

ロシアの文豪プーシキンは1827年にこの教会を訪れた時、「白い雲が山頂を覆っているが、修道院は日光の中で、雲に支えられて空中に浮かんでいるように見えた」と書き記しています。
このようにツミンダサメバ教会は古くから知られた名所ではあるのですが、景観だけでなく、700年前の人々がこのような高い山の上に、人力だけで石材を運んで教会を建てたという出来事に思いを寄せれば感銘もひとしおでしょう。

なお、首都トビリシからステパンツミンダまでは160㎞ほどあり、軍用道路と呼ばれる片側一車線の道路を通って行きます。この道は18世紀末にジョージアを支配した帝政ロシアが、コーカサス山脈の北側のウラジカフカスからトビリシまでの軍事用の輸送路として19世紀初めに造ったものです。現在は軍事車両より、物流関係の大型トラックがたくさん行き交っています。道中の風景は、我が国の北アルプスをもっと雄大にしたような美しさです(写真4)。


写真4:軍用道路からの眺め

トビリシからツミンダサメバ教会までの往復は、日帰りツァーとして最適であり、ぜひお勧めしたいと私は思っています。

写真:
  • 写真1:「ヴァルジアの洞窟都市」、筆者撮影
  • 写真2:「ワインを貯蔵した窪み」、筆者撮影
  • 写真3:「ツミンダサメバ教会」、筆者撮影
  • 写真4:「軍用道路からの眺め」、筆者撮影

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