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Our World through Music
~甘い音と巡る世界の響き~Vol.8

およそ280年もの間、歌われている音楽

今回は、前回と同じ舞台のバロック時代に活躍した、巨匠ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルについてお伝えします。というのは、そろそろ彼の代表作「メサイア」が演奏されるシーズンだからです。あの有名な歌も、彼自身と当時の音楽シーンを知ってから聴くと、また違った楽しみ方ができるのでは、と思います。

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル。1685年ドイツのハレで生まれます。1685年といえば、前回ご紹介したバッハも同じ生年。また、当時人気だったイタリアの音楽家スカルラッティもこの年に生まれています。スカルラッティは、鍵盤楽曲が特に有名です。
ヘンデルはハレ大学の入学と同時に、ハレ大聖堂のオルガニストとなりました。その後、ハンブルグやイタリアの様々な都市を訪れ、各地で音楽活動をしています。そして、1710年、初めてロンドンを訪れました。

ここで、ヘンデルの作品から「オン・ブラ・マイフ」をお聴き頂きましょう。歌曲として書かれましたが、その優美で洗練された旋律の美しさから器楽でもしばしば演奏されます。私もこれまでに何度演奏したか、回数はわからないほどです。

いかがでしょうか、きっと耳にしたことがおありでしょう。
この旋律は大変美しいのですが、実は2拍子と3拍子が混合しているような箇所がいくつもあり、それを理解していないとなかなかこのように美しく演奏することが難しい曲でもあります。そう、実はバロック時代の作品は、演奏者の力量がかなり問われるものなのです。(ちなみに、この「オン・ブラ・マイフ」は世界で初めて電波放送された曲でもあるそうです。それも興味深いですね。)

さて、ロンドンを訪れたヘンデルは、そこで数々の名曲を生み出していきます。
まず、有名なのはイギリス王ジョージ一世がテームズ河で舟遊びする際に演奏されたという「水上の音楽」。これもきっとお聴きになったことがあるでしょう。

この曲は、ジョージ一世と仲がこじれてしまったヘンデルが、王のご機嫌を取るために作曲されたと言われていましたが、それは事実ではないという最近の研究もあります。

ヘンデルの作風というのは、華やかさと優美な旋律、軽やかな後味がいつまでも心地よく耳に残ります。彼は上述のとおり、ドイツに生まれましたが、のちにイギリスに帰化しています(名前は生まれたときの洗礼名です)。そして当時の人気度といえば、バッハを遥か凌ぐものでした。現代においてはバッハこそが音楽の父と呼ばれるほどであるのに、当時はまるで逆だったのです。

私が想像するに、当時のヨーロッパの経済状況もそこに影響を与えているとではないかと思います。
18世紀といえば、イギリスが大英帝国として発展した時期。産業革命、広大な植民地支配、正に現代に至るまでの資本主義経済を作り上げていった時期であり、それに比べてバッハがいたドイツという場所は、ヨーロッパの片田舎だったと言われます。国家の経済力の違いも何か関係があったのではないかな、と想像しています。

ヘンデルの作品の中心は、オペラ、そしてオーケストラに歌が入るオラトリオなどです。器楽曲もたくさん書いたバッハとはそこも違いますね。いつの時代も歌曲は人々に好まれやすいですから、もしかしたらそこも人気の違いなのかもしれません。
ただヘンデルの作品は、当時の人気だけではなく、後世の作曲家たちにも多大な影響を与えており、数々の作曲家が学びの対象としています。

現代でも演奏頻度が高いということは、ヘンデルの曲はとても魅力溢れるということ。
聴いて感じられる魅力と、作曲のお手本にもなる構成と、どちらも優れているということなのでしょう。
「オン・ブラ・マイフ」も何度演奏しても、弾くたびに感じられる何か新しい感性がそこにはある。それはまるで、気忙しい毎日の中では見過ごしてしまいそうな柔らかな樹木の香りだったり、何気なく聴こえている優しい声色だったりのような気がします。

さて、そんなヘンデルの大作「メサイア」をご紹介しましょう。
メサイアとは、救世主メシアのこと。キリスト教の宗教音楽として、バッハの「マタイ受難曲」などと同じくらいよく知られています。忘れさられていた「マタイ受難曲」がメンデルスゾーンの手によって再び息を取り戻したエピソードは前回ご紹介しました。
それもすごいことですが、「メサイア」はヘンデル存命中からずっと演奏され続けているわけで、それもすごいことだと思います。

「メサイア」の中で特に有名なのが「ハレルヤ」です。
神を褒め称えよ、という意味のヘブライ語である「ハレルヤ」。
晴れ晴れしい内容と、澄み切った空のような音楽は、聴いていてあたかもこちらも祝福されているかのようないい気持ちになってきます。それこそが本当の意味で幸福なのかな、と思うのは私が音楽家だからなのかもしれませんが、これから年末にかけて数多く演奏される「メサイア」。
この冬、新たな視点からこの曲を聴いてみられてはいかがでしょうか。

「ハレルヤ」だけの動画と、全曲の動画2つ載せますので、お時間のある方はぜひ全曲もお聴きください。全曲のほうは、サーの称号を持つ指揮者コリン・デイヴィスとロンドン交響楽団による演奏です。

「ハレルヤ」

「メサイア全曲」

資料:

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