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東方正教会 ― 知られざるキリスト教文化圏
Ⅴ 正教会の祭と民間の伝統行事 ― 4.その他の祭

これまで正教会の大きな祭として復活祭と降誕祭を取り上げ、それに付随する伝統行事などをご紹介してきましたが、もちろん特徴的な祭は他にもあります。

例えば1月6日(ロシアや日本などユリウス暦を採用している教会では1月19日)の神現祭(しんげんさい。Theophany)が挙げられます。これはキリストがヨルダン川で洗礼を受けた出来事を記念する祭です。
神現祭には大きな器に入った水を祝福して聖水にする大聖水式という儀式がありますが、これは屋外の海や川、池など、広い水辺で行われることがしばしばあります(もちろん街中などで物理的にできない教会はその限りではありません)。
この大聖水式の時、ロシアのように寒冷な地域では凍った水面に穴を開け、信者が冷たい水中に入る習慣があります。これは洗礼でヨルダン川に入ったキリストにあやかるものです。(写真1)


写真1:水に入るシベリアの少女

またギリシャなどバルカン半島の温暖な地域では、司祭が十字架を海や川に投げ入れ、それを泳いで最初に拾い上げた者に福が来るという、一種の水泳大会が行われます。(写真2)


写真2:ギリシャ・エギナ島の神現祭

また正教会では、信仰生活の模範となるような生き方をした人や、教会のために目覚ましい働きした人に聖人の称号を与え(列聖)、尊敬しています。聖人には必ず祭日、つまりその聖人固有の記念日があります。洗礼を受けて正教会の信者になる時は洗礼名、日本正教会用語で聖名(せいな)がつけられますが、これは自分の守護者として聖人の名前を頂くということです。そのため、正教会社会では自分の洗礼名の聖人の祭日を誕生日以上に祝うことが珍しくありません。これを聖名祭(せいなさい)といいます。

本来、聖名祭は個人の記念日ですが、セルビア正教会ではその家の守護聖人の聖名祭を祝うスラヴァという習慣があります。スラヴァの日には司祭が家庭訪問してお祈りをし、ご馳走を食べます。この時に食べる祭日用のパンはポガチャといい、開いた花のような形状をしています。(写真3)


写真3:セルビアのポガチャ

このスラヴァは、スラブ民族がキリスト教信仰を受け入れる以前にあった、家や部族の守護神を祭る習慣がベースになっていると考えられています。

以上のような宗教上のイベントは、必ずしもキリスト教の教義に直結するものではありませんが、正教会社会においてはキリスト教の伝統的な教義を守る一方で、その地域や民族の歴史的・伝統的文化を受容し、生活に密着する形で発展してきた結果、自然発生的にさまざまな年中行事が誕生したのです。これらの独特な行事について予備知識があれば、該当する国々の人と会話する時、より親しみを感じてもらえるかも知れません。

写真:
  • 写真1:『水に入るシベリアの少女』、ロシアNOW、2014年1月20日号より転載
  • 写真2:『ギリシャ・エギナ島の神現祭』、AFP、2014年1月7日号より転載
  • 写真3:『セルビアのポガチャ』、筆者撮影
参考文献:
高橋保行『ギリシャ正教』講談社学術文庫

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