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Our World through Music~
甘い音と巡る世界の響き~Vol.32

ニューイヤーワルツはスパークリングワイン

いよいよ年の瀬ですが、今月は「お正月の風物詩」とも言える作曲家をご紹介します。正確には、作曲家一家。親子、親戚まで作曲家になってしまったシュトラウス一家です。毎年1月2日に放送されるウィーンフィルハーモニーのニューイヤーコンサートでお馴染みの彼らについてです。

シュトラウスというと、有名なのはヨハン・シュトラウス。実はこの名前で二人の人物がいます。ヨハン・シュトラウス一世(父)とヨハン・シュトラウス二世(息子)。特に二世のほうが耳に馴染み深い曲をいくつも書いていますので、まずはお聴きください。

歌劇「こうもり」より序曲。

華やかな響き、途中に出てくる明るいメロディは彼らの歌心がそのまま現れたかのようです。

「トリッチ・トラッチ・ポルカ」ポルカとはチェコ起源の速い2拍子の音楽で、躍動感が魅力です。

この2曲だけでも、彼らの全てが分かってしまいそうなほどですね!

こんな素敵な音楽を生み出したシュトラウス家ですが、ヨハン・シュトラウス一世と二世は実は大変仲が悪く、数多の「虐待を受けた作曲家」たちを軽く凌駕しそうなほどの行為を一世はしでかしました。
幼い息子がヴァイオリンを弾きたい一心で近所の子供たちにピアノを教え、そのなけなしのレッスン料で買ったヴァイオリンを叩き壊し、デビューしようものなら自らの地位と影響力を駆使してあらゆるレストランや会場に息子の音楽を使わせないようにしたり、新聞記者を買収し誹謗中傷をさせようとしたり…。それに対して息子も負けじと同じようなことをやり返しているのがなかなかのものです。
宮廷舞踏会音楽監督を担う父親は、息子の活躍により自分の地位が脅かされることを嫌ったようです。

「虐待を受けた作曲家」には、寝ているところを酔っ払った父親に叩き起こされポスト・モーツァルトを目指せとピアノの練習をさせられた少年ベートーヴェンや、1日に10時間もの練習、それも少しでも気が抜けてしまうと食事抜きとさせられてしまっていた幼いパガニーニなどいますが、それにしても壮大な親子喧嘩です。
そうして散々嫌がらせをされた二世のデビューコンサートは、父のヒット曲をメインにしたプログラムで大成功だったそうです。

ご安心下さい。親子は後に和解し、共に助け合うようにまでなりました。

では二世の作品から「美しき青きドナウ」をお聴き下さい。

弦楽器が弦をはじくピチカート奏法だけで演奏する「ピチカート・ポルカ」

時代としては、19世紀初頭から末頃に生きた2人。親子とも大人気でヨーロッパ中演奏して回りました。ヴァイオリンを立って弾きながら指揮をするというスタイルで自身の楽団を作った一世。その死後は二世が楽団を引き継ぎましたがあまりの仕事量に対応しきれず、弟たちにも手伝わせ、結果的に一家で音楽家一家となります。

実はそれを支えたのは一世の妻であり息子たちの母親であったアンナ。彼女は家庭を顧みず稼ぎも全て愛人に貢いでしまう夫が子供たちに音楽をさせることを反対していたため、逆に子供たちの音楽を応援し続けていたのです。例のヴァイオリン事件のあと、こっそりヴァイオリンを買い与えたのも彼女でした。

こうして名実ともに音楽家一家となった彼ら。特に二世の人気は凄まじく、ロシアでも大人気、そしてアメリカ招聘ではボストンでの独立100周年記念式典での出演でなんと聴衆の数10万人です!2万人の演奏者に二世一人だけでは指揮しきれないとのことで100人の副指揮者がつきました。このスケールの大きさが正にアメリカですね。

彼らは当時の作曲家たちにもその実力を認められていました。楽壇での影響力を持っていたブラームスによる肯定的な意見は他の音楽家たちの立場も変えさせました。それは、現代もそうですが「街中でうけるものは低俗、高貴なものは一部の者にしかわかりえない」というような見方によるものでしょう。ブラームスは正に高貴な音楽の代表で、街角で誰もが口ずさむヨハン・シュトラウスは低俗だとみなされがち。例えて言うと、漫画と純文学を比べるようなものでしょうか。人それぞれ、価値観は違えどどちらも楽しめる人生でありたいと思います。

二世の甥っ子も三世として活躍しましたが、作曲家というより先代までの音楽を守るための指揮活動、録音がメイン。その甲斐あって、シュトラウス一家の音楽は現代でも新年のお祝いされるほどとなっています。

最後に、本記事の締めくくりとして一世による作品をお聴きください。ニューイヤーコンサートでも締めに演奏される「ラデツキー行進曲」です。

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