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Relationship ― ミャンマーと日本の『時間軸』を辿る ~最終章:この先のミャンマー、日本との距離感

この先のミャンマー

本年11月の総選挙の結果で、NLD(国民民主連盟)による政権が継続することとなりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大への対応を含め、短期的にも課題が山積する中、二期目の政権運営においてしっかりと取り組まなければならない課題も多く存在します。

国内においては、ミャンマー国民の中にも芽生え始めた、経済的に潤った感覚を確実なものにする政策が必要となってくるでしょう。しかし海外からの投資を呼び込むための魅力ある市場を作り上げなければ、単に労働力のみ必要とされる国からの脱却は到底無理な話です。そのため次期政権においては、感染症拡大防止措置と、一時停滞していた経済活動やインフラ整備の再始動が必要であり、専門家の間でも今度はより早く成果の出せる経済成長に力が多く注がれるのではないかという見方があります。


写真1:ラカイン州の病院前で検温を行う病院関係者

NLDとしては、悲願である現憲法改正が課題となるでしょう。国軍系野党のUSDP(連邦団結発展党)が大敗し、国軍にとって議会の中での発言力が弱まった存在になってしまったことで、国軍側の改憲協議への対応がより一層態度を硬化させる可能性を持っていますし、大勝の勢いのみで与党が突き進むと、大きな落とし穴に落ちる事になるかもしれません。
こうした与党・野党の関係に緊張感が生まれる懸念もある中で、ミン・アウン・フライン国軍総司令官が2021年に定年を迎えるに当って定年延長論も一部出ており、その去就も今後の政権運営に影響を与えるでしょう。

対外的な課題としては、国際的批判を浴びている所謂「ロヒンギャ」問題をどのように国際社会に理解してもらうかということに加え、バングラデシュ政府など隣接国との協調により解決への道筋を立てられるかということでしょう。
しかしこれはミャンマー国民の根底にある歴史認識や「ミャンマーナショナリズム」ともいえるムスリム忌避感情を払拭する大きな決断をしない限り、国際社会の批判も、隣国からの要請にも一切応えられることはないと考えられます。

このような政治的な課題に加え、ポストアウン・サン・スー・チーの育成も急務です。
5年後に80歳になるアウン・サン・スー・チーの後任は現状ではおらず、同じようなカリスマは直ぐには育成できないでしょうから、スー・チー自身が指名するしかないと考えます。将来的には党としての組織を近代化して、後継者が何度も政権を担える仕組みをつくる必要がある反面、スー・チーが5年後も健康であるならば続投するのではないかという一部観測もあります。

日本との信頼の距離感

さて、これまで長きに亘ってミャンマーの歴史と日本との関係性について書いてきました。


写真2:共同記者会見する安倍首相とスー・チー国家顧問

特に日本の学校教育では今までほぼ解説されてこなかったアウン・サン将軍と鈴木大佐との出会い、日本での潜伏生活、ビルマ独立義勇軍結成と南機関の交流、インパール作戦などで敗れた日本兵が英軍の追跡から逃れる際、ミャンマーの人々がかくまったり食事を施したりしてくれたこと、バー・モウの日本への脱出、戦後軍事裁判でのアウン・サンらの嘆願による鈴木大佐の釈放など大東亜戦争期から終戦まで、そして敗戦後の日本の食糧不足を救ったビルマからのコメの緊急輸入や戦後賠償、経済協定締結の影で奔走した元南機関員とビルマ政府関係者との変わらぬ絆、軍事政権下でも人的物的支援を行ってきた日本政府、『安倍外交』の中でも特別な位置付けに感じるミャンマー訪問など戦中、戦後、現代へと時に等しく血を流し、時に絶妙な距離感をもって接してきたミャンマーと日本との信頼関係について、みなさんにご紹介できたと思います。

ただ残念ながらここ最近の日緬関係は、以前の関係に比べてやや熱は冷めてきているのではないかと感じることもあります。NLD政権によるアジア外交のなかでの日本の位置付けは若干下がったのではないかと思う状況もあり、最近のアウン・サン・スー・チーのコメントを見ていても、中国との関係性をより強くしていくような節も感じられます。

しかし完全に両国とも関係が途切れたわけではありません。今後も日緬関係は、過去の諸先輩方が築いてきた信頼をベースにしてまた再び大きな花を咲かせる可能性があり、そのためにもこれまでの日緬関係の歩みを、広くみんなで再考する必要があると私は思っています。
近年、どちらかと言えば労働力を必要とする国(日本)と労働力を提供する国(ミャンマー)という立ち位置が出来ていましたが、これからはお互いが同じ目線で協力・協調できる関係を築いてゆくことを考えなくてはなりません。

(終)

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