ピアノにおけるパガニーニ
今回は、革新的で国際的な活動を行ったピアニストについてご紹介します。前回のベルリオーズとも親しかった人、フランツ・リストです。彼は長生きだったうえ、活動の範囲がとても広かったのでほんの少ししか触れることができませんが、音楽と共にお楽しみください。
フランツ・リスト(1811年~1886年)。ハプスブルグ家支配下のハンガリーで産まれました。彼の血統を辿るとハンガリー人の血筋ではなく、またハンガリー語も話せませんでしたが、彼自身は生涯ハンガリー人の誇りを抱いて生きていたため、現在でもハンガリー人の音楽家としてみられています。
では、最も有名なこの作品からどうぞ。「愛の夢」です。
リストは、以前ご紹介したハイドンが勤めていた大貴族エステルハージ家の管理人だった祖父と父、つまり使用人の家に生まれました。父親からピアノの手ほどきを受け、9歳で演奏会に出演するほどの才能を発揮しました。
これは、彼のピアノ協奏曲第1番です。
国を超えて活躍してほしいという父親の願いから、ウィーンでツェルニーというピアニストのレッスンを受けます。ツェルニーはベートーヴェンの弟子で、ピアノ教則本を書いた人として有名です。そして、作曲をかのモーツァルトのライバルだったとも言われるサリエリから習います。その後、パリ音楽院に進学しようとしたところ、関門が待っていました。
それは、外国人の入学を認めない、というものです。現代でも国籍や人種による様々な出来事はこの世の中において重大な問題ですが、彼のような人でさえそうでした。
では、リストによるオーケストラ作品の代表的な曲をお聴きください。元々合唱曲の序奏として書かれ、独立して発表された「前奏曲」。通称レ・プレリュードです。
どうでしょうか、リストはベルリオーズが創り上げた「標題をテーマに音楽で奏でる標題音楽」を更に発展させ、交響詩という分野を確立させました。この曲はラマルティーヌの詩にある「人生は死への前奏曲」という考えに基づいています。
この当時のパリで音楽活動をしようと思ったら、貴族が開くサロンで注目を浴びるしかありません。今に置き換えたらコロナ禍においてのYou Tubeでしょうか。リストもサロンに出入りします。もちろんベルリオーズも、ショパンも、画家のドラクロワもそうでした。リストは美しい外見と卓越した演奏において有名人となります。
ここで、一つ有名な逸話をご紹介しましょう。第14回に登場したヴァイオリニストのパガニーニ。彼は同時代に生きた音楽家や芸術家たちに最も多大な影響を与えた人といっても過言ではなく、多忙なリストのような有名人たちも通常の数倍もする価格のチケットを買い求めその演奏を聴いたほどでした。
彼らの感想はそれぞれ名言として残っていますが、リストはまた強烈です。彼は「私はピアノにおけるパガニーニになる!」と言いパガニーニの演奏を聴いた直後2週間ほど、ホメロス、プラトン、聖書、そしてユゴーやラマルティーヌを読み漁り、ベートーヴェン、バッハ、モーツァルトやウェーバーを研究し、ピアノの基礎テクニックのための指練習に取り組みました。
そう、リストは音楽だけでなく哲学、宗教、文学にまで広く関心を抱いていました。のちに「ゲーテ基金」を立ち上げようとしたくらいです。
これは、パガニーニのヴァイオリン協奏曲を元に書かれた「ラ・カンパネラ」です。
元になったパガニーニのヴァイオリン協奏曲はこちら。
リストは、その風貌と魅力から女性にも大変人気でした。その魅力の元になった一番の理由は、実は彼が史上初めて現在のリサイタルを開き、それが強烈だったからではないかと思います。この頃まで演奏会では一人の演奏家が長時間弾き続けることはなく、ベートーヴェンの演奏会でさえ、交響曲は楽章の合間に他の作品をはさんで演奏され、一晩の演奏会に複数の演奏家がそれぞれ違う形態(歌やピアノ、アンサンブルなど)で披露することが通例でした。さながら現在のライブハウスでのブッキングのようです。リストは初めて「リスト・オンステージ」と言える形態を作り上げたのでした。
音楽と同じように恋にも生きたリスト。ですが長く愛した女性とは教会が許さず結婚できませんでした。あまりに活躍したからか疲れもあり、最後は聖職者となります。
そんな晩年の作品より「エステ荘の噴水」をお聴きください。のちのラヴェルやドビュッシーにも影響を与えた曲です。「巡礼の年」という、彼が訪れた土地の印象を表した曲集の中から、僧となってから書いた曲です。
駆け足で巡ったリストの人生。彼の娘のコジマは、リストの弟子ハンス・フォン・ビューローの妻であったのにワーグナーに寝盗られてしまったのです。ここにも物凄いストーリーがありますが、今回はここまでとします。最後に私が一番好きなリストの作品をお聴きください。長大な物語のような音楽、彼のピアノソナタです。
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- Nobuyuki Tsujii – Liszt – Liebestraum No 3 in A-flat major, Love Dream
- Lang Lang – Last Night Proms 2011 – Liszt Piano Concerto No. 1 in E flat major
- Les Préludes (Franz Liszt) Daniel Barenboim mit Berlin Philharmoniker – Staatsoper Berlin (1998)
- 辻井伸行 / リスト:ラ・カンパネラ
- Paganini: Violin Concerto No.2 In B Minor, Op.7, MS.48 – 3. Rondo à la clochette, ‘La campanella’
- Nobuyuki Tsujii – Liszt – The Fountains of the Villa d’Este
- Martha Argerich plays Franz Liszt – The Piano Sonata in B-Minor S.178