巨匠から見ても難しい作曲家 パガニーニ
今回は、歴史的大ヴァイオリニストとして筆頭にあがる人物をご紹介します。ニコロ・パガニーニ。伝説的なエピソードを数多く持ち、映画にもなりました。演奏家、作曲家、またショービジネスにおいても功績を残しています。その人となりを、同じくヴァイオリニストの私ならではの見方でお伝えします。
彼はイタリアのジェノバ生まれ。ベートーヴェン生誕(1770年)の12年後、1782年にこの世に降り立ちました。
7歳で父親の指導のもとヴァイオリンを始めます。これがまた、恐ろしくスパルタな父親で、猛特訓のうえちゃんとやらなければ食事を抜かれることもあったほどです。ベートーヴェンもかなりスパルタな父親にピアノを教えられていましたが、パガニーニも凄まじい環境で育ったのでした。
その甲斐あってか13歳頃には「弾けないものはなかった」ほど上達します。
この時代にはいわゆる超絶技巧を用いる作品はまだなかったものの、案外弾きにくい作品というのはいくつもあって、それは現代でも「難しい」と言われています。しかしパガニーニにとっては、それらもやすやすとクリアできてしまうものだったのでしょう(とは言っても、食事を抜かれたらたまったものではないです!)。
パガニーニといえばセンセーショナルな話題で盛りだくさん。挙げるときりがありません。
例えば、パガニーニは当時最も人気があった演奏家だったので、彼が来るとなると街中の人が演奏会場に詰め寄せた、とか。演奏中に次々と弦が切れていって最後は一番低いG線だけで弾ききった(自分の爪で切ったとも言われています)、とか。共演するオーケストラに、事前に楽譜を渡さず当日に配り、終演後もすぐさま回収してアイディアを盗まれないように
した、とか。賭博に負けて楽器を売った、等々。検索してもたくさん出てきますので、ご興味がある方は是非お調べください。
ちなみに、この手の話題の中で私が一番好きなものは「あまりに弾けるので悪魔と呼ばれ、死後もジェノバ当局が死体の埋葬を拒否した」です。
彼の音楽の特徴と言えば、まず超絶技巧。
それまでなかった、左手で弦を弾くピチカートや、倍音を効果的に使う技巧的なハーモニクス。和音も当たり前のように出てきます。
ヴァイオリニストとして思うことは、左手で音を押さえながら別の指で弦を弾くのは、難しい。
技巧的なハーモニクスも同じく左手が難しく、とても押さえにくい和音が多く出てきます。
右手に多い技巧は、ワンボウスタッカートといい、一弓でたくさんの音を切りながら弾くものや、4弦あるうちの間の1、2弦を飛び越えて弾く移弦、独特なスラーの付き方など、右手も左手も難しいのです。
彼のもう一つの特徴。それはイタリアらしい明るい美しい旋律。
それではここで美しいパガニーニをお聴き頂きましょう。「カンタービレ」歌うように、というイタリア語です。
この曲はヴァイオリンとクラシックギターで演奏されます。
数奇な人生を送った彼は、富豪女性ギタリストの「ヒモ」であったひと時もありました。だからでしょうか、そう、実はパガニーニはギタリストでもあったのです。
そうして彼は、ギター独奏曲や、ヴァイオリンとギターの2重奏曲を数多く残しました。上述した独特の超絶技巧はギターの技から生まれたとも言われています。
確かに、左手ピチカートやハーモニクスはギター奏法の応用でしょうし、私の友人のギタリストに尋ねると、超絶技巧で名高い「24のカプリス」に出てくる難しい音型はギターで弾くと簡単、なのだとか。
また、パガニーニは冷徹なほど商業主義者でもあり、公演のチケットの管理など徹底していたそうです。芸術家は浮世離れしているイメージが大きいですが、彼はそれとは真逆。ショービジネス史上初めてポスターを効果的に使うなど、宣伝も上手でした。
音楽家への影響力も絶大で、フランツ・リストは「私はピアノのパガニーニになる」とピアノでまた大変な超絶技巧曲をいくつも残しています。
2019年6月9日に行う私の演奏会では、このパガニーニの作品だけを取り上げています。クラシックギターとそれぞれの超絶技巧曲もあり、パガニーニの魅力を感じて頂けるかと思います。
パガニーニの超絶技巧を、同じく超絶技巧を得意とした巨匠ハイフェッツの演奏でお聴き下さい。
このカプリス24番をピアノとオーケストラの名作として昇華させたラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。正に狂ったような面白さです。
では、最後に私が震撼した、とあるエピソードで締めくくりましょう。
上述のハイフェッツは、凄まじいテクニックでの録音を数多く残しているのですが、その彼がこんなことを言っていたそうです。
「私はパガニーニのヴァイオリン協奏曲*は録音しない。難しい曲だから。」
(*協奏曲とは、ソリストとオーケストラによる曲です)
ハイフェッツほど上手いヴァイオリニストはいない!と言っても過言ではないと思うのに、なんと高次元での発言なのでしょうか。思わず、肝が冷えた話でした。
- 資料:
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- Panorama of colorful picturesque harbour of Porto Venere with San Lorenzo church, Doria Castle and Gothic Church of St. Peter, Italian Riviera, Liguria, Italy.(イタリア ジェノバのパノラマビュー)
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