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Our World through Music~
甘い音と巡る世界の響き~Vol.28

恋とドラッグの果てに生まれた幻想曲とは

夏の終わりにゾッとしそうな音楽をお届けします。フランスのベルリオーズ「幻想交響曲」。楽曲の解説と共にお楽しみ下さい。

エクトル・ベルリオーズ(1803~1869)。サロン文化が花開いたパリでベルリオーズもデュマやユーゴー、またバルザックといった文豪たちと交流した文化人でした(余談ですが、福岡県久留米市にはバルザック像があります。私は実際に見たことがあるのですが、九州の風景のなかに突如現れるバルザック像には驚きました。)。

では、この動画を元にご説明します。

この作品には、彼によるプログラムノートがついており、以下はウィキペディアからの引用です。

「病的な感受性と激しい想像力に富んだ若い音楽家が、恋の悩みによる絶望の発作からアヘンによる服毒自殺を図る。麻酔薬の量は、死に至らしめるには足りず、彼は重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見、その中で感覚、感情、記憶が、彼の病んだ脳の中に観念となって、そして音楽的な映像となって現われる。愛する人その人が、一つの旋律となって、そしてあたかも固定観念のように現われ、そこかしこに見出され、聞えてくる」

そう、これは文字通り恋の病とアヘンに侵された彼の夢を描いたものなのです。『夢、情熱』と題された1楽章の解説です。

「彼はまず、あの魂の病、あの情熱の熱病、あの憂鬱、あの喜びをわけもなく感じ、そして、彼が愛する彼女を見る。そして彼女が突然彼に呼び起こす火山のような愛情、胸を締めつけるような熱狂、発作的な嫉妬、優しい愛の回帰、厳かな慰み」

動画の6:23からお聴き下さい。活気に満ちたメロディ。これこそが恋の相手、彼女です。ここから先、この彼女が彼の幻覚の中で様々な形に変化していきます。

第2楽章『舞踏会』

「とある舞踏会の華やかなざわめきの中で、彼は再び愛する人に巡り会う」

ざわめく会場の中、ワルツの美しい音楽とともに華やかに開かれる舞踏会。17:23からよく聴くと、あの彼女が現れます。彼女もこのパーティにいたのです!

第3楽章『野の風景』

「ある夏の夕べ、田園地帯で、彼は2人の羊飼いが「ランツ・デ・ヴァッシュ」を吹き交わしているのを聞く。牧歌の二重奏、その場の情景、風にやさしくそよぐ木々の軽やかなざわめき、少し前から彼に希望を抱かせてくれているいくつかの理由[主題]がすべて合わさり、彼の心に不慣れな平安をもたらし、彼の考えに明るくのどかな色合いを加える。しかし、彼女が再び現われ、彼の心は締めつけられ、辛い予感が彼を突き動かす。もしも、彼女に捨てられたら…… 1人の羊飼いがまた素朴な旋律を吹く。もう1人は、もはや答えない。日が沈む…… 遠くの雷鳴…… 孤独…… 静寂……」

夢の中で彼女と田園に出かけたのでしょうか。30:05から弦楽器の激しいトレモロの中に現れる彼女のテーマ、彼の不安を表したかったのかもしれません。不安が入り乱れる中、35:35からリズムを変えて少し彼女が現れます。また、楽章の冒頭、コーラングレーと姿が見えないところから返事のようにおぼろげに聴こえるオーボエは実は舞台裏で吹いています。

第4楽章『断頭台への行進』

「彼は夢の中で愛していた彼女を殺し、死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。行列は行進曲にあわせて前進し、その行進曲は時に暗く荒々しく、時に華やかに厳かになる。その中で鈍く重い足音に切れ目なく続くより騒々しい轟音。ついに、固定観念が再び一瞬現われるが、それはあたかも最後の愛の思いのように死の一撃によって遮られる」

重々しい打楽器は断頭台への行進の様子。周りで囃し立てるのは幻の悪魔たちじゃないかと思います。43:56から見える彼女の幻影、そして落ちる彼の首!

第5楽章『魔女の夜宴の夢』

「彼はサバト(魔女の饗宴)に自分を見出す。彼の周りには亡霊、魔法使い、あらゆる種類の化け物からなるぞっとするような一団が、彼の葬儀のために集まっている。奇怪な音、うめき声、ケタケタ笑う声、遠くの叫び声に他の叫びが応えるようだ。愛する旋律が再び現われる。しかしそれはかつての気品とつつしみを失っている。もはや醜悪で、野卑で、グロテスクな舞踏の旋律に過ぎない。彼女がサバトにやってきたのだ…… 彼女の到着にあがる歓喜のわめき声…… 彼女が悪魔の大饗宴に加わる…… 弔鐘、滑稽な怒りの日のパロディ。サバトのロンド。サバトのロンドと怒りの日がいっしょくたに」

魔界を表す不気味なコントラバス、どことなく聴こえる笑い声。45:58から現れる滑稽なメロディは、なんと魔女になった彼女です。47:46から流れるのはグレゴリオ聖歌「怒りの日」。そう、最後の審判の日です!夢の中で彼女を殺した彼は最後の審判にかけられ、魔界の狂乱の渦はますます盛り上がり音楽は集結します。

駆け足での説明でしたが、残暑厳しい日本の夏を少しは涼やかに感じて頂ければ幸いです。

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