楽器も世界の歴史と文化を語っている
連載2回目の今回は、私の専門であるヴァイオリンについてお伝えします。
ヴァイオリンの歴史はおよそ400年ほど。その歴史から見えてくる世界のつながりと文化をご紹介しましょう。今回の舞台はイタリアが中心となります。
弦楽器のルーツはとても古く、メソポタミアの時代からその出現は見られています。
弦楽器の定義は、
「張られた弦の振動を発音体とする楽器の総称。しかし弦の振動のみでは楽音として使用できないので、共鳴胴や共鳴板を必要とする。打弦楽器、撥弦楽器、擦弦楽器の3種に分類するのが、もっとも一般的である。」(音楽之友社「新音楽辞典」より抜粋)
とされています。
この、3種の代表的な楽器の例として、
打弦楽器・・・ピアノ(ピアノは鍵盤を押すと内部のハンマーが弦を叩くことで発音されます。)
撥弦楽器・・・ギター
擦弦楽器・・・ヴァイオリン、チェロ、中国の胡弓など
擦弦楽器とは、弓もしくは棒を使って弦をこすって音を鳴らす楽器のことです。
ピアノが弦楽器に分類されるということも興味深いですが、そのお話しはまたの機会にゆずるとしましょう。
楽器の女王、ヴァイオリン
さて、今回の主役のヴァイオリン。
現在のヴァイオリンの原型は16世紀半ば、イタリア北部クレモナでアンドレア・アマティが残しました。イタリアの印刷物にヴァイオリンという言葉が初出現したのが1551年。アンドレア・アマティという人は1560年代にフランス国王シャルル9世の宮廷楽団にヴァイオリンを始めとする弦楽器を38挺納品しています。
このクレモナという土地は、現代でもヴァイオリン製作のメッカとも言われるような街。
アンドレア・アマティの孫はニコロ・アマティで、彼の作品は現代では数億円以上もの価値がついています。そして、このニコロの弟子が、かのアントニオ・ストラディヴァリ。その楽器は数十億円ともなる価格で取引されています。この価格を目にするだけで眩暈がしてしまいそうです。
芸術の都イタリア
ここで、イタリアという街について考えてみましょう。
古くからイタリアでは、工業が盛んなトリノ、ファッションのミラノ、ヴェネチアのガラスに、そしてフィレンツェ。。。等々、神聖ローマ帝国時代からの流れで、様々な文化が各地で発展していました。フィレンツェのメディチ家からマリー=ド=メディシスがフランス国王アンリ4世にお嫁入りしたことで、イタリア料理がフランス料理に大きな影響を与えたと言います。そのことからもわかるように、古くはイタリアが芸術の都でした。
皆さんがお聴きになったことがあるヴァイオリンの音色。コンサートであったり、テレビから流れる音であったり。その多くはイタリア製(イタリー)の楽器で奏でられているといっても過言ではありません。
なぜ、イタリーなのか?
それは、イタリーでしか持ち合えない艶やかさと甘さ、そして美しい響きがあるからです。
実は、クラシック音楽の歴史においても、数々の名だたる作曲家たちがイタリアを目指して勉強しています。最たる例は、1663年にフランス国家が芸術を学ぶ学生に与えるため設立したローマ賞。パリが芸術の都と言われ、ウィーンで音楽家たちが活躍して久しくなってからもこの賞の授与は続けられ、19世紀にはオペラ「カルメン」で有名なビゼーや、印象派のピアノ曲「月の光」で有名なドビュッシーなどがこの賞によりローマに留学しています。
また、フランスからだけでなく、オーストリアの「塩の街」、ザルツブルクからはモーツァルトが3回訪れていますし、もっと更に遠いロシアからチャイコフスキーも2回訪れています。
その土地ならではの甘い空気、そして日本に似た温暖な気候をもつイタリアは、緯度が高いドイツ・オーストリアをはじめ北の国々の人にとって憧れの国だったのです。
風土に加えて、言葉の響きもきれいだと言われるイタリア語。オペラ発祥の地、イタリアの言語はクラシック音楽においては公用語のように用いられています。
例えば、ピアノという楽器の名称はイタリア語のPiano(小さいという意)からきています。本来はピアノフォルテPianoforteという呼び名ですが、略称でピアノと呼ばれています。Forteは大きいという意味。文字通り小さな音から大きな音まで奏でられる楽器という意味です。このPianoやForteは、その意味のまま音楽用語として用いられてもいます。
ヴァイオリンの発祥がイタリアということを考えると、このイタリアという土地の魅力そのものを音色にしたものがヴァイオリンという楽器なのかもしれません。
最後に、私がイタリアの曲を演奏した動画をご紹介しておしまいとしましょう。フェルディナンド・カルッリ作曲のセレナーデ。クラシックギターとの共演です。
ちなみに、私の楽器もイタリーです。
- 参考文献:
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- 「ヴァイオリンハンドブック」(株)ミュージックトレード社 山口良三著
- 「ストラディヴァリとグァネリ」文芸新書 中野雄著
- 動画:
- Serenade by F.Carulli