民族・言語・宗教
民族構成は、アラブ人が95%、アルメニア人が4%、クルド人などその他1%。現在のレバノンに相当する地域はかつてフェニキア人の根拠地であったことから、レバノン人は「フェニキア人の末裔」であることを誇りにしている。なお、19世紀後半から20世紀にかけてレバノンからブラジルへの移民が増えた結果、わずかでもレバノン系の先祖がいるとされるブラジル人の人口は、現在のレバノンの総人口にも匹敵するとも言われている。
公用語はアラビア語だが、英語・フランス語は広く通じる。その他、アルメニア語、クルド語なども話される。
宗教はイスラム教系(シーア派、スンニ派、ドゥルーズ派、アラウィー派など)、キリスト教系(マロン派、ギリシャ正教、ギリシャ・カトリック、ローマ・カトリック、アルメニア正教など)など18の宗派がモザイクのように混在し、これら18の公認宗派に政治権力が配分されている。
地理・気候
山々が連なる美しい自然に恵まれていることから、「中東のスイス」と呼ばれるレバノン。西は地中海に面し、南側はイスラエル、北及び東側はシリアと国境を接している。国土のほぼ中央をレバノン山脈が南北に貫き、その最高峰はカーネット・アッサウダー山(標高3,088m)である。東部のシリア国境付近にはレバノン山脈と平行するようにアンチレバノン山脈が走り、これら2つの山脈の間にベカー高原が横たわる。レバノンは海岸地域、山岳地域、高原の3地帯から成り、砂漠はない。
レバノンのほぼ全土が地中海性気候に属し、年間を通じて温暖だが、山岳地域や高原では冬場は気温が下がり積雪する地域もある。「レバノン」という国名はフェニキア語で「白い山脈」を意味し、これは山頂が冠雪したレバノン山脈を指していると言われている。
レバノン国旗の中央にも描かれているレバノンスギは、耐久性に優れるうえ、防虫、防腐効果も高く、良質な木材として古くから重宝されてきたレバノン山脈の名産品であったが、乱獲によって激減し、現在は保護対象となっている。レバノン山脈にあるカディーシャ渓谷とそこに群生するレバノンスギは、「カディーシャ渓谷と神の杉の森」として世界文化遺産にも登録されている。
政治・外交・軍事
大統領を国家元首とする共和制国家。宗派ごとに政治権力を分散することが憲法上規定されており、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派が務め、議員数も各宗派の人口に応じて定められるなど「セクト別座席指定」ともいえる慣行がフランスからの独立以来続いている。
レバノンはアラブ連盟の一員であり、アラブ諸国との外交に重点を置く。
外交上特に関係が深いのが、フランスとシリアである。レバノンの旧宗主国であるフランスは、内戦後のレバノン復興では国際会議の開催等の形でイニシアチブを発揮し、現在まで政治、経済など全般的に緊密な関係を構築している。
シリアは歴史的経緯からレバノンを特別な同胞国とみなしており、1975年~1990年まで続いたレバノン内戦終結時に締結されたターイフ合意では、シリア軍の駐留等、シリアによる実効支配が取り決められた。しかし、2005年2月のハリーリ元首相の暗殺事件がきっかけとなってシリア排斥の政治運動が盛り上がった結果、同年4月、シリアはレバノンから完全撤退。このシリア撤退に至らしめた一連の運動は「杉の革命(レバノン杉革命)」と呼ばれている。2008年に外交関係樹立を宣言する共同声明に調印したことで、レバノンとシリアは通常の二国間関係に移行した。
レバノンはヒズボッラーなど対イスラエル抵抗組織の活動を許容しているため、2001年の同時多発テロ以来、ヒズボッラーを警戒しているアメリカからは国内武装勢力の解散や武装解除を求められているほか、国境線を有するイスラエルとは、領土問題をめぐってヒズボッラーとイスラエル軍の衝突も発生している。
レバノン軍の兵力は約6万人(うち約5万6,600人が陸軍)で、「フラグ・サービス」と呼ばれる事実上の徴兵制度が敷かれている。フランスからの独立以降続いていた民族・宗派に基づいた部隊編成などの「宗派主義」の蔓延が分裂を生み、レバノン内戦を誘発したという反省から、現在は軍隊入隊によって全宗派の青年にレバノン国民としての自覚を求め、各宗派の将兵は定期的に所属部隊の異動を経験することで他宗派との交流の機会を増やすなど、宗派主義の緩和を目指している。
サウジアラビアは、ヒズボッラーを抑制する目的でレバノン軍の支援を行ってきたが、2016年にレバノンとサウジアラビアがアラブ連盟内で対立したことから、サウジアラビアは同年支援の見直しを行った。現在も、主に南レバノン情勢安定のため、アメリカ、イギリスを中心に、フランス、イタリアなどの欧州諸国を中心とする諸外国からの軍事支援を受けている。
経済
通貨はレバノン・ポンド。
レバノンは19世紀以降養蚕業が興隆し農業国となったが、世界大戦後には第三次産業が活況を呈した。首都ベイルートはかつては「中東のパリ」と呼ばれ、中東におけるビジネスや金融の重要拠点となったが、内戦によって国内の産業・経済が崩壊。1990年の内戦終了から経済復興が進められているものの、非産油国ということもあってレバノン経済は観光、不動産、外国からの送金等に依存しており、国外情勢に大きく左右される状況にいるのが現状である。
2011年以降、レバノン政府は景気維持のための財政支出を拡大するにあたり、ドル預金金利を市場より高めに設定することでドル資金を集めた。しかし、2019年10月以降の大規模反政府デモ等政治不安によりドル預金の引き出しが拡大。レバノン政府は米ドル預金の引き出し制限などを行ったが、このような無理のあるドル資金調達等が引き金となり、2020年3月9日に償還期限を迎えた12億ドルの国債の元本支払いを実行せず、デフォルトに陥った。
まとめ
- 面積:10,452km2(岐阜県程度)
- 人口:約610万人(2018年推定値:2019年CIA The World Factbook)
- 首都:ベイルート
- 民族:アラブ人(95%)、アルメニア人(4%)、その他(1%) (2019年CIA The World Factbook)
- 言語:アラビア語
- 宗教:キリスト教(マロン派、ギリシャ正教、ギリシャ・カトリック、ローマ・カトリック、アルメニア正教)、イスラム教(シーア派、スンニ派)等18宗派
- 政体:共和制
- 元首:大統領
- 主要産業:金融業、観光業、食品加工業
- 主要輸出品目:金、発電装置、屑銅、書籍(2016年WTO)
- 主要輸入品目:石油精製品、自動車、医薬品、金(2016年WTO)
- 主要貿易相手国(輸出):南アフリカ、EU、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、シリア(2016年WTO)
- 主要貿易相手国(輸入):EU、中国、米国、エジプト、ロシア(2016年WTO)
- 参考資料:
- 外務省HP レバノン
- 西遊旅行 レバノンの旅
- 国際通貨研究所 中東経済シリーズ~レバノンの金融情勢~
- Wikipedia レバノン
- Wikipedia レバノン内戦
- Wikipedia 杉の革命
- Wikipedia カディーシャ渓谷と神の杉の森
- Wikipedia レバノン軍
- 中東協力センターニュース「中東情勢分析 首相辞任表明で揺れるレバノン情勢 試される宗派均衡の知恵」
- 在レバノン日本国大使館 レバノン案内
- JETROアジア経済研究所 佐藤章編『政治変動下の発展途上国の政党』調査研究報告書 (2008 年) 第1章 レバノンの政治制度、政治体制、政治構造――第二共和制を中心に――
- JETRO ジェトロセンサー エリアレポート
- Skyticket レバノン杉が生息する絶景、世界遺産カディーシャ渓谷と神の杉の森
- 東京都立図書館 レバノン共和国
- 中東調査会 中東かわら版 No.174
- フォーリンアフェアーズリポート 「多文化国家レバノンにおける軍隊の複雑な歴史ーレバノン軍の南部掌握で国の一体性は生まれるか?」
- 地図出典:
- 旅行のとも、ZenTech レバノンと周辺国の地図
- 写真出典:
- Baskets being decorated as part of a therapeutic handicraft training class in southern Lebanon., Lebanon, Wikimedia Commons
- Mohammad Al-Amin Mosque