写真:シンガポール街並み・オフィス街
今回のコラムから数回にわたって、今までより少し身近な話題として、『日本とシンガポールの働き方の違い』をお伝えしていきます。タイムリーにも日本では、「働き方改革」が成立され、旬なトピックとなっています。日本以外の他の国では、「働く」ということをどのように捉えられているのでしょうか。そしてその背景にあるものは何なのでしょうか。今回のテーマでは、残業時間、休暇、の2つに沿って、その違いを見ていきましょう。
残業時間
日本では、残業することはごく一般的な概念かと思います。なかには、「上司が帰るまで帰れない」などの文化的風潮もまだ残っているところもあるでしょうし、20時以降まで働くことも多いことから、いざ飲み会を開催してもスタート時間に全員が集まっておらず、始められないことも、よくある光景ではないでしょうか。
シンガポールでは、職種、役職によっても異なりますが、残業は稀なことです。例えば、私がシンガポールでインターンシップをしていた日系航空会社を例にとってみると、定時と同時に、ほとんどの人が帰宅準備を行い、オフィスも消灯されます。一部の営業職においては接待などに出向くこともありますが、シンガポール人で特に事務職をしている人たちが残業することはとても稀でした。
また、シンガポールには日本でみられる半ば強制的な歓迎会や送別会などの懇親会がほとんど存在しません。業務時間外にわざわざお店を予約して同僚と交流を図るよりは、ランチに誘い合って親睦を深めることの方が多く感じられました。仕事とプライベートを分けていると表現することもできるでしょう。
では、なぜシンガポールでは、残業という概念が一般的ではないのでしょうか。
その理由は、シンガポールの労働制度が影響しています。シンガポールにも日本のように雇用法(Employment Act)が存在していますが、日本と比べて残業代支給の適用条件が限られており、以下の通り保護される従業員の範囲が少ないのが特徴的です。
<雇用法(Employment Act)残業代支給の適用者>
① 給与4,500Sドル(約36.5万円/2018年7月1日時点)以下の肉体労働者
② 給与2,500Sドル(約20万円/2018年7月1日時点)以下のホワイトワーカー
つまり、これら①、②に該当しない人に関しては、会社は法的に残業代を支払う義務がないのです。また、この条件は休日出勤に関しても該当するため、特別手当が支給されない休日出勤も当然のことながら、あまり一般的ではありません。
休暇
休暇種別 | 日本 | シンガポール |
---|---|---|
年次有給休暇 (初年度比較) |
10日間 (雇用6カ月以降) |
7日間 (雇用3か月以降) |
私傷病休暇 | 法令上特に定め無し | 最大14日(通院) 最大60日(入院) |
比較しやすいよう、日本とシンガポールの休暇について上記の表を作成してみました。
初年度の有給日数を比較すると、シンガポールは日本より3日間少ないですが、シンガポールでは他の休日などと合わせて2週間程度の長期休暇取得も普通にみられることです。長期休暇を利用して、家族旅行などを楽しんだりしています。
さらに、シンガポールと日本、休暇の一番大きな違いとして、シンガポールにはPaid sick leave(有給傷病休暇)があることです。日本の場合、風邪等の私傷病(プライベートな時間でのケガや病気)で仕事を休む際は、一般的に有給消化をすることが多いですが、シンガポールでは法律で試用期間の有無に関わらず、傷病による休暇の取得が認められています。また、医師の証明書があれば、給与支払いがある状態で仕事を休むことができます。シンガポール人材省(MOM)のサイトの傷病休暇の説明によると、雇用開始から3か月以上から適用され、通院で最大14日間の傷病休暇、入院は、最大60日間(通院14日間含む)まで義務とされています。
まとめ
日本とシンガポールの働き方を比較すると、その違いを生み出す背景には法制度が影響していることがわかります。シンガポールの残業や休暇に対する労働者を守る制度は、一見日本より基準が低く働く側にとって過酷な条件のように見えるでしょう。しかし、残業代が発生しない分、長時間労働は一般的ではなく、仕事とプライベートのメリハリができると言えるのではないでしょうか。
そして、年次有給休暇に関しても、与えられている取得日数こそ日本より少ないですが、給与補償される疾病休暇の義務化は日本より充実しています。働く側からすれば、シンガポールの方が、いざという時に体や精神を休める機会が多く用意されており、より安心感を得られる労働環境と言えるでしょう。
このように両国を比較することによってその違いに気づかされ、我が国の労働環境の現状を改めてより深く理解することができます。皆さんはこの違いに対してどう考えられるでしょうか。是非、このコラムを通して、現在の日本の労働環境を見つめ直す時間としてみてはいかがでしょうか。
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