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Our World through Music~
甘い音と巡る世界の響き~Vol.19

神経衰弱から華麗なステージプレイヤーへ

今月は、ロシアの音楽家をご紹介します。
セルゲイ・ラフマニノフ。現代にも通じる新しい試みと悩みも経験した人でした。
その人生には、私たちが共感できるところもあるかもしれません。今回は本人による演奏動画を多めに載せました。その軌跡と併せてご覧下さい。

1873年、貴族の家に生まれます。当時の貴族は広大な領地を経営する経営者でもありましたが、父は経営能力に欠ける人でした。そのせいで一家は破産、両親は離婚します。幼い頃からピアノの才能を発揮したラフマニノフは、ペテルブルグ音楽院に入学しましたが、あまり熱心な生徒ではなく落第してしまいました。が、才能を認められモスクワ音楽院に転入します。

まず彼の有名な作品として、こちらをご覧下さい。

前奏曲作品3-2

ラフマニノフがモスクワ音楽院ピアノ科、及び作曲科を首席で卒業した頃に発表した初期の作品です。既にその個性が強烈に表れていると言えるでしょう。後年、演奏会でも大人気で、本人が嫌になってしまうほどだったそうです。まるで、ゲーテが晩年になっても「ウェルテルの悩み」のイメージで語られることを嫌がったことのようです。

学生時代にはチャイコフスキーに可愛がられ、音楽院を優秀な成績で卒業し順風満帆にスタートを切ったはずですが、人生はそう簡単ではありませんでした。

大注目を浴び、音楽関係者がみな集ったという交響曲第1番の初演が大失敗してしまいます。指揮を担ったグラズノフ(この人もロシアの有名な音楽家です)が悪かったとか、初演の地の性格と音楽性が合っていなかった、などと理由ははっきりとはわかっていません。
ですが、このことによりラフマニノフは失意の底に落ち、自信喪失、神経衰弱にもなってしまいました。その間、尊敬していたチェーホフやトルストイにも会っています。チェーホフはラフマニノフに大きな励みを与えてくれたそうですが、一方トルストイは辛辣な対応でラフマニノフは更に傷ついてしまいます。

その後、音楽好きの精神科医ダーリ博士による睡眠療法を受けるようになりました。治療の効果については諸説ありますが、そののち発表した作品は大成功を収めました。
それがピアノ協奏曲第2番です。

ロシア革命が起こると、ラフマニノフはパリへと亡命します。その翌年アメリカでコンサートピアニストとしてデビュー。45歳のときでした。
ヨーロッパでも活躍し、名ピアニストのホロヴィッツや、この連載でもご紹介したクライスラーといった当時の一流演奏家たちと交流を重ねるようになります。ラフマニノフは、卓越したピアノ演奏技術の持ち主でもあり、ステージで求められる高い要求にも応えられる、稀代なピアニストでした。その才能はリストと並んでピアノ史上に燦然と輝いています。

では、ここでラフマニノフとクライスラーの親交の様子をご覧ください。
まずは、クライスラー作曲の「愛の挨拶」。クライスラー本人の演奏です。

この名曲を、ラフマニノフはこのように編曲しました。

どうでしょうか?全く違う雰囲気で、まるでジャズのようにも聴こえます。
ちなみにクライスラーはピアノパートもとてもお洒落に書いていて、そこに更にラフマニノフの遊び心が加わりました。

次の動画は、2人の演奏によるクラシック名曲の録音です。真面目で自分に厳しかったラフマニノフに対して、自由で楽観的なクライスラーのコンビ。ベートーヴェンやシューベルト、グリーグを美しく演奏しています。

そしてこちらはヴァイオリンの曲をピアノソロに編曲しました。バッハ作曲「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」より、「プレリュード」、「ガヴォットとロンド」「ジーグ」。

ラフマニノフについて私が驚嘆するのは、彼が中年になってからピアニストとして活躍したことです。普通は、若いときに演奏活動で名を馳せのちに大作曲家となる。これまでもご紹介した作曲家たちはそうでした。ですが、彼は逆です。
一般的には加齢によって身体能力は衰えていくはずですが、彼はそれすらも超えた天才だったのでしょう。録音技術が生まれたばかりのこの時代に、いくつもの録音を残していることからもそれがわかります。
また、彼はピアノメーカーとして名高いスタインウェイ社と契約しました。これは演奏において同社のピアノを使用しおよび所有するということで、彼は「不滅のスタインウェイ・アーティスト」ともなったのです。

母国を出てから作曲をしなくなったラフマニノフ。その理由に「何年もライ麦のささやきも白樺のざわめきも聞いていないから」と答えています。
その彼が61歳で作曲したのがこちら。華麗な編曲のセンスが惜しみなく表れた、「パガニーニの主題による狂詩曲」です。

最後に、指揮者としても活躍したことがおわかり頂ける動画をご覧ください。歌詞がない歌曲「ヴォカリーズ」。本人の指揮でオーケストラ演奏です。

この曲を、2019年11月24日東京原宿で演奏します。ヴァイオリンとピアノで、この重厚な響きをどれだけ表現できるのか、天才音楽家へ対して私も挑戦したいと思います。

写真:
  • Portrait of LadyXIX Century with russian borzoy dogs
動画:

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