World Map Asia

海外就職経験者が見たシンガポール
~暮らす、働く、起業する~Vol.6


写真:シンガポールオフィス街の風景

前回のコラムでは、シンガポールでの起業(法人設立)について、どれだけ環境面の整備がなされているのかを、税制と公共施設を具体例としてお伝えしました。
今回は、法人設立で実際に感じた手続きのスピード感と、日本では耳慣れない「カンパニーセクレタリー」についてお伝えします。出来るだけ分かりやすくお伝えするため、著者の体験談を踏まえて綴っていきます。

実は法人設立と一括りにまとめて表現をしても、いくつかの形態があります。私が実際に体験したのは現地法人という形態での会社設立であり、また、その立ち上げに携わったのは2013年と少し前のことであることを注意点として先に述べておきます。それぞれの形態による特性や違い、最新の情報については、参考として本文下に記載したウェブサイトをご覧いただくか、専門家にご相談下さい。

さて、シンガポール会社設立の専門的な情報は、書籍やインターネットなどで多く目にすることができると思いますが、今回は体験談を事例としてご紹介しますので、シンガポールで会社を作るとはどういった感じなのかを是非想像してもらえたらと思います。

シンガポールの法人登記手続きとは?


会計企業規制庁Accounting and Corporate Regulatory Authority (ACRA)のウェブサイト

2013年、私は当時シンガポールで一緒に働いていた会社社長と新しく法人を設立するチャンスに恵まれました。ITの会社で会計業務に携わりながら、全く異なる業種と資本で設立することになったのです。

「シンガポールに会社を出したい」。そう言って、日本の有名企業の重役が片道7時間程もかけて視察に訪れる国です。その頃はまだ一会社員としてただ働いているだけだったので、そういったシンガポールの魅力が今ひとつ分からなかった若干30歳の私、日本でも法人設立の経験など一切ありませんでした。しかしそんな私でも、会社設立を体験してみると、その手続きが驚くほど明瞭完結でスピーディーであることが直ぐに理解できたのです。


図①:ACRAウェブサイトでの法人設立手続きプロセス(著者作成)

その理由としてあげられるのが、会計企業規制庁Accounting and Corporate Regulatory Authority (ACRA) のオンライン申請です。ウェブサイト上で法人登記ができ、手続きをしてから約半日で登録完了の連絡をもらうことができるのです。このACRAウェブサイトでは会社登記前の準備段階として、社名登録から開始し、コード入力による業種登録、その後に会社登記という順で手続きが進んでいきます。全体でみても、約2週間程度で手続きは完了します。

同じく驚いた点として、少し余談となりますが、日本で法的な書類に使用する、所謂「社判」は不要で、選任された取締役のサインだけで正式な定款として認められる点も、手続きがシンプルかつスピーディーとなっている一因と言えるでしょう。

このACRAウェブサイトは、設立後も決算書の提出手続きに使用され、日本でいう法務省と財務省の役割を担っています。シンガポールで事業を営んでいる方や、会計業務をされている方であればこの存在をご存知のことと思います。
しかし実際にはこれらの登録業務を自分たちで行うわけではなく、カンパニーセクレタリーに依頼し、手続き完了までを行ってもらっているのが殆どです。

カンパニーセクレタリーという存在

日本であまり馴染みのない、カンパニーセクレタリーという存在。「秘書役」と訳され、シンガポールでは全ての会社において最低1名のカンパニーセクレタリーをおく必要があります。カンパニーセクレタリーは、法人登記に伴う定款などの書類作成及び提出から、取締役会議事録などの法的書類の作成、管理まで、会社を運営するための様々な業務を行います。

シンガポール会社法の定めとして、法人設立後の6ヶ月以内にカンパニーセクレタリーの選定が義務付けられていますが、上述したように設立準備から、法人登記の手続き代行を依頼できるので、カンパニーセクレタリーが所属する専門会社とやり取りしながら会社設立するのが一般的な形となります。

具体的に私が携わった法人設立を例にあげると、シンガポールの会社にカンパニーセクレタリー業務を依頼し、会社設立の手続きから、その後の就労ビザの手続きや、会計会社の紹介までノンストップで行ってもらいました。

なお、それぞれの会社によってサービスの内容に多少の違いもあります。例えばオフショア事業等の専門的な相談やアドバイスをしてくれる会社もあれば、日本人がカンパニーセクレタリー業務を遂行する会社も存在します。前者の場合は、海外で法人設立をしたい人にとっては心強い存在となってくるでしょうし、後者は英語でのやり取りを極力避けたい場合に役に立ちます。ご自身の希望や条件に合わせて情報収集をしてみるとよいでしょう。

まとめ

シンガポールでは、多くの外国資本を招き入れるため、法的な手続きの多くが広くオンライン化されており、完了までのプロセスが明瞭かつとてもスピーディーになっています。外国人誘致の国策が至る部分で徹底されているのを感じられる他、選定義務のあるカンパニーセクレタリーは外国人にとって、現地で法人設立の障壁を少なくするだけでなく、円滑な事業運営を行ってくれる頼りがいのある大きな存在です。

日本で日本人が法人を設立する場合は専門家でなくても登記することはできますが、日本語ノンネイティブである外国人にとっては非常にハードルが高い手続きの一つです。今後グローバル化が益々進むであろう日本において、グローバル先進国シンガポールの取組を参考にすることは、国内ビジネスを更に活発化させる活路となるかもしれません。

また私達自身が、シンガポールの事例を通じて海外現地法人設立プロセスを知っておくだけでも、一個人として今後のグローバル化に備えられるのではないでしょうか。

資料:

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)