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Relationship ― ミャンマーと日本の『時間軸』を辿る ~ミャンマー連邦共和国国家独立70周年を迎えて

歴史的節目と政治的節目

2018年1月4日、ミャンマーは国家独立70周年を迎えました。ミャンマーという国家に対する世界の見方も、近年、「最貧国」から「経済成長を期待する国」として、「軍事政権」から「民主政権」への移行加速が期待される国として好意的になってきたところです。


写真1:2018年独立記念式典の様子

しかしながら、ご存知の通りラカイン州におけるいわゆる「ロヒンギャ」に対する事案の苛烈化に伴い、民族融和や国家統合に向けた動きが鈍化し、欧米が民主化の象徴として担ぎ上げたアウン・サン・スー・チーに対する信頼の低下等を受け、国家成長の雲行きが怪しくなってきたという懸念も起き始めています。
ミャンマーはこの先どのような道を辿っていくこととなるのでしょうか。少し考えてみたいと思います。

経済成長は持続するのか?

みずほ総合研究所の報告によれば、ここ5年間についてGDP成長率は+7.5%と高水準で推移していましたが、昨今はインフレの高進、経常収支の悪化が見られ、その成長率はやや鈍化傾向にあると考えられています。


JETRO(日本貿易振興機構)
「2017年度在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」を
参考にグラフを作成

東南アジア地域における経済活動の魅力の一つとして「人件費の安さ」があり、実際ミャンマーの人件費は未だベトナム程の賃金水準には至っていません。また、国内のほとんどの労働力は第一次産業(農業)に割り当てられていますが、製造業など第二次産業へ転換できる余剰労働力は残っているとみられています。女性の労働参加率も2015年においてはベトナムが72.9%に対して、ミャンマーは51.6%に過ぎず、この点においても新たな労働力開拓の余地はまだ十分にあると考えられます。
そして、識字率は約95%、貧富の差に影響されない教育システムを持つ国家なので、特に若年層からの有益な人材の発掘は今後も期待できるところであると思います。

反面、今後は製造業労働者の人件費が間違いなく上昇すると予想されており、賃上げ要求のデモやストライキといった労働運動が現時点ですでに増加傾向にあります。
また現在のミャンマー政府は具体的な経済政策を公表していないという欠点もあり、外国の投資家や海外展開を目論む各国企業にとって「一歩踏み出せない感」があることは否めません。
この先、政府発表でどのような政策を出すのか、全く出さないのかで、国家経済へのダメージの度合いが変わって来るかもしれません。

正念場のNLD政権~期待値は減少傾向か?

2016年に誕生した事実上アウン・サン・スー・チー政権は、民主化・解放政策を推進するであろうという、国内外のかなり高い期待値をもってスタートしました。
政権発足時からの懸念事項は、とにかく経験値がない所からどのように政権運営をするのか、強固なミャンマー軍とどのような話し合いを持つのか、果たして協力できるのかということにありましたが、この懸念を払拭することは現在までのところほぼ出来ていません。


写真2:NLD本部での記念行事の様子

前述したように、ラカイン州におけるいわゆる「ロヒンギャ」問題が深刻化し、その対応について主として国際社会からの批判は国軍だけではなく、現政権とスー・チーにも向けられています。

この理由ついては、欧米をはじめとする国際社会は、ノーベル平和賞受賞者のスー・チーがその賞に見合った行動をとってくれるものと過信していたこともあり、その思惑が外れた怒りの矛先をスー・チーに向けてきたものと考えられます。ただ世論が望むような武力制圧によらない解決策を模索しようにも、既にこの問題は長い歴史の中で絡まった糸が幾重にも層を作っており、国連をはじめとする国際秩序のセオリーではもはや解決は難しい状況です。残念ながら、これは今後も長期化する問題として政権へプレッシャーをかけ続けることになると思います。

ロヒンギャ問題の対応で注目される中、スー・チーをはじめとする現政権に対する今の期待値はどうなっているのかを見てみると、失望や不信感よりも政権の判断や国軍の行動に賛同する国民が多くを占めているという現状がありますので、今後の傾向として政府は、隣接国や問題当事国との連携は図りつつも、「内向き」に政治の舵を取らざるを得ないのではと考えます。

また、現政権の二枚看板である、ティン・チョウ大統領とスー・チーに健康上の問題ありという情報も漏れ伝わってきており、突然政権トップが居なくなるという危険性も持ち合わせたうえで政権運営を行わなくてはなりません。

それでもミャンマーは進まなくてはならない

経済と政治という二つの視点で考えてみましたが、ミャンマーは今、国家として良い方向に行けるのか、悪い方向に行ってしまうのか、本当に紙一重のところにある状態と言えるでしょう。かなり極論にはなりますが、国際社会が勝手に想像していた「虚像」はもはやなくなったわけですから、スー・チーをはじめとする政権の人々は、今後は対外イメージに固執することなく、国民が真に望む政策や支援を進めるべきだと考えます。

かといってスー・チーの独善的運営では埒があきませんから、今こそ彼女が毛嫌いする国軍幹部と腹を割って国家運営の意見の一致を図り、行政と軍が両輪となって「真っすぐ進む」努力を重ねて欲しいと思います。

(続く)

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