音も生も豪華絢爛
今回は、強烈な人物をご紹介しましょう。
１８１３年、ザクセン王国（現在のドイツ）生まれ。その人生と音楽と思想は、現代にまで大きな跡を残しています。その人とは、リヒャルト・ワーグナー。作曲家、詩人、指揮者、そして思想家でもありました。あまりにも大きな生き方であったため、一部しかお伝えできませんがお読みください。
では、まず有名なこの曲
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より序曲です。
とても堂々たる冒頭、訴えかける強いメロディと深い進み方。
さて、この“楽劇”という言葉。これはワーグナーの歌劇作品のことをそう呼びます。それはなぜでしょうか。
彼は、若くして指揮者として活動し始めますが、決して順調な出だしではなく、３０歳頃までは苦労の連続でした。また借金癖がひどく、債権者から逃れるために夫婦で国外脱出もしています。
“楽劇”を生み出した彼の人生と、彼の音楽に共通する一つの特徴は「豪華絢爛」。
ビロードの絨毯が敷かれ、煌びやかなシャンデリア、貴婦人たちの美しい姿。。。
借金を背負いながらも、常に自宅の中はそのように飾り立てていたワーグナー。音楽にもその豪華さがよく表れていると思います。
そして、もう一つの特徴は「女性」。
事実、本人も女性関係から得られる感性を大切にしていました。
楽劇『トリスタンとイゾルデ』より序曲。
なんとも悲哀的、そして官能的な艶やかさ。
この作品は、ワーグナーがある夫人と不倫関係にあったときの作品です。しかし、このメロディのなんと美しいことか。許されないことであるのにどうしようもできない、人の情感をそのまま音にしたためたようです。
さて、“楽劇”とは、「オペラは総合芸術でないといけない」という彼の信念そのものでした。音楽、美術、文学、全ての要素は統一されていないといけない、という信念。それは彼の中期以降の作品において実現されています。
実際、彼の作品は序曲を除いて、音楽と劇がずっと途切れることなく続きます。
例えば、モーツァルトのオペラなどは、有名なアリアがあり、それが終わると次へと場面が変わるわけですが、彼はそれを嫌いました。
確かに、我々の人生と照らし合わせてみると、そのほうが自然とも言えるかもしれませんね。
思想家としての一面ももっていた彼は、自身の思想を現実にするための行動も起こしていきます。政治活動を行い、また音楽書の他に思想書も書きました。その中でユダヤ人に対する敵対的思想も隠すことなく記しています。
そう、あのヒトラーがワーグナーを好んだ、というのはワーグナーの音楽だけではなかったでしょう。ナチスのプロバガンダ活動でワーグナーの作品が数多く演奏されたのは有名な事実。ヒトラーが政治家を目指したのは、ワーグナーの作品を観劇していたときであったと言われています。
イスラエルではワーグナーの作品は上演されることはなく、２００１年、世界的なピアニストであり指揮者のダニエル・バレンボイムがイスラエルでワーグナーを演奏したときには、大変な騒ぎとなりました（この人は、イスラエルで育ち、イスラエル国籍も所有しています）。
ヒトラーが好むほどの魔力があるワーグナー。
彼が信念を行動に移した例として最たるものは、バイロイト劇場の建設でしょう。
彼に心酔したバイエルン国王ルードヴィヒ２世は、国の財政が傾くほどの経済的援助をしました。そして建設されたバイロイト劇場では、ワーグナーの作品以外上演されませんでした！
ただ唯一の例外は、ワーグナーがこけら落としのときに指揮をしたベートーヴェンの交響曲第９番「合唱付き」。実は、この曲はベートーヴェン死後、長らく世間から忘れ去られていたのを彼が研究し、名作として世に知らしめたのです。
素晴らしい功績を残しつつ、同じくらい悪影響を周りに与えてしまう人物。晩年も人妻と不倫し子供を産ませ、相手の夫とも３人で暮らしたのちに結婚、といった生き方は、「音楽は素晴らしいが人柄は低俗だ」と言われる所以の一つでしょう。
ただ、その結婚相手コジマは芸術家にとっては素晴らしい女性だったようで、彼女との生活により彼は音楽史上に残る大作を残します。
それは、「ニーベリングの指環」全４作。４つの楽劇から成り、４日以上かけて上演されます。神々や巨人、英雄たちが世界を支配できるという指環をめぐって争う物語。
なんと、彼はこの劇も全て自分で書いています。そう、彼の作品は全て自身で台本も書いているのです！
まだまだお伝えしたいことはたくさんありますが、長くなりますので最後にこの曲に代弁してもらい、終わりとすることとします。
- 写真：
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- Big panorama of the Wagner Festival Theatre in Bayreuth, germany. Theatre of the famous german composer Richard Wagner.
- 動画：