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Our World through Music
~甘い音と巡る世界の響き~Vol.6

ボヘミアの郷愁溢れる音楽

今回は、
チェコの大作曲家、アントニーン・ドヴォルザークをご紹介しましょう。
彼は、前回ご紹介したチャイコフスキーと同じくらいの時期に、ボヘミアというヨーロッパの田舎から音楽の都ウィーンで認められ、最盛期には、新天地アメリカでも活躍します。
豊かな才能で大西洋を股にかけて活動したその生き方は、グローバル化が叫ばれる現代の我々にも学ぶところがあるかもしれません。

ドヴォルザークは、1841年生まれ。
世界的には、アヘン戦争が繰り広げられていた間であり、12年後にはクリミア戦争、そのおよそ10年後には南北戦争があった頃です。
現代のチェコは、音楽の観点からいくと「弦の国」と呼ばれ、チェコを代表するオーケストラ、チェコフィルハーモニーは弦楽器の音色の美しさで知られています。

ちなみに、ドヴォルザークの頃のチェコという地域はヨーロッパの中でも田舎だったそうですが、その昔都会からきた領主が都の音楽文化を懐かしみ、町の人たちに楽器奏法の勉強をさせたところからチェコでは音楽文化が発展したそうです。

さて、ここでチェコの国民的作曲家スメタナのある有名な曲をお聴き頂きましょう。
連作交響詩「我が祖国」より第2曲目「モルダウ」です。

冒頭1分ほどから始まるこのメロディ、きっと耳にされたことがおありでしょう。
スメタナは1824年生まれ。この作品は、ハプスブルク帝国支配から独立しようとする民族主義が盛り上がってきた1860年頃に書かれています。スメタナは独立運動の音楽的スポークスマンとして活躍しました。

「我が祖国」と名付けられたこの連作の曲集では、祖国の風物と民族を賛美しています。
ドヴォルザークより20歳ほど先輩のスメタナとドヴォルザークはしばしば比較されていたようです。

では、ドヴォルザークの代表的な作品をいくつかご紹介しましょう。
まずは、言わずもがな。交響曲第9番「新世界より」の、第2楽章。続けて第4楽章です。

冒頭から50秒。これもきっと聴かれたことがあるメロディでしょう。日本では「家路」と題されています。

冒頭から16秒頃からのこの重々しい音楽は、日本では頻繁にテレビなどで使われています。

この交響曲第9番は、ドヴォルザークがアメリカのニューヨーク国民音楽院の院長として招聘されたときに書かれました。ドヴォルザークの作曲活動が最も充実していた頃で、この時期には弦楽四重奏曲「アメリカ」や、チェロ協奏曲など、名曲をいくつも誕生させています。
このアメリカ時代に書かれた作品群たちは「アメリカから届いたチェコ語の手紙」と評されるほど、チェコの風土そのものを感じられることができます。

海の向こうから、名声と共に名作をいくつも届けたドヴォルザーク。
そのドヴォルザークも若いときには芸術的にとても苦労したようです。

元々、プラハ国民劇場付きのオーケストラでヴィオラ奏者だった彼は、当時指揮者だったスメタナからもその薫陶を受け、在籍中に作曲活動を始めます。
そうしてプラハで作曲家としての地位を固めていったのち、オーストリア政府が領土内の新進芸術家に給付していた国家奨学金を5年間連続で受け取りました。この時期の終わりに、ブラームスに認められ、国際的な活動のきっかけを得ます(ブラームスはドイツ3大Bと呼ばれる大作曲家です。日本ではお正月にウィーンフィルハーモニーのニューイヤーコンサートがテレビで放映されていますが、その会場であるウィーン楽友協会の芸術監督でした)。

大家に認められ、それで安泰とはならないのが芸術の厳しい世界。
ドヴォルザークの作品は街中では楽しまれていましたが、コンサートホールで聴くとなるとなかなか難しい評価を受けていました。この頃のドヴォルザークは、兄弟のように可愛がってくれるブラームスの影響を多大に受け、ウィーンの洗練された雰囲気も作品に取り入れようとします。
そうでありながら、ウィーンに移住して仕事をすることを薦められてもそれを断り、チェコにとどまりました。これは、先述したチェコでの民族主義の高まりと無縁ではないでしょう。

国際的に大作曲家の仲間入りをしていき、最盛期にアメリカ行きの話がきたときも、相当悩んでいます。
ですが、その決断により、素晴らしい名作がいくつも残されることとなりました。

余談ですが、ドイツ3大Bの一人、ベートーヴェンの人生の歴史の中で「傑作の森」と呼ばれる時期があります。それは、交響曲第5番「運命」などの不朽の名作が綺羅星のように産み出された時期のことをフランスの作家ロマン・ロランがそう呼びました。
個人的に、私はドヴォルザークのアメリカ時代も彼の「傑作の森」だと思います。
チェコの薫り、それを都会で磨かれた手法で伝えてくれるその作品群からは、場所も時代も遠く離れた我々でもボヘミアの空気を感じることができます。

ドヴォルザークはヴィオラ奏者だったこともあり、弦楽器奏者にはとても重要な人物で私も愛する作曲家。この連載でもまたお伝えすることがあると思います。

では、最後に、この秋2018年11月25日に私が演奏する彼の「4つのロマンティックな小品」をご紹介しておしまいとしましょう。秋の深い自然や御伽噺を思わせる、心に染み入る曲集です。
演奏はヨゼフ・スーク。ドヴォルザークの曾孫にあたる人です。
言葉では伝えきれない音楽の深さを感じて頂ければ幸いです。

資料:
  • 参考文献: 音楽之友社「新音楽辞典 人名」
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