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食から読み解く中央アジア
第5章 遊牧民の食文化

中央アジアの北部は広大なステップ(草原)が広がり、そこは古来より遊牧民が活躍する世界でした。現在ではカザフスタンキルギスといった国の領域となっています。

このうち、テュルク系民族であるキルギス人には、次のような言い伝えがあります。「肉の好きな人は西に行き、キルギス人になりました。魚の好きな人は東に行き日本人になりました」そう言われるとおり、顔立ちは驚くほど日本人そっくりで見分けがつかないほどです。

近年までボズユイ(ユルタ)という移動式住居に暮らして、馬や羊の遊牧をしていたキルギス人は、必然的にタンドールなど大型で固定式の調理器具などを用いてきませんでした。よって、伝統的な食事としては、ヨーグルトやチーズやバターなどの乳製品、クムズという馬乳酒、カズィという馬肉の腸詰など保存の効く食文化が発達しました。

搾ったばかりの生乳もそのままでは腐敗しやすいのですが、チーズ、バター、ヨーグルトなどに加工すると保存食となるのです。乳製品は乳を多く搾ることができる夏の食品です。

また、羊や牛などの畜肉も多く食べられます。これには種付け用以外の雄や乳を出さなくなった雌などが肉用として選ばれ、厳しい冬を前に屠畜し保存用加工肉として主に冬季の食料とするのです。

乳加工については、家畜の食料となる草の生えない冬季に仔畜が生まれても母乳が出にくいので、仔畜の成長に適さないことから、草が生育する春に出産を迎えられるように生殖の管理も行われます。生活場所が移動することも家畜が草を食べ尽くさないためでもあります。

このように、一見すると遊牧民は自然に近い、または「文明化」されていない生活をしているとみなされがちなのですが、一年間を通じて安定的に食料を得られるように計算された、非常に高度な文明を持っていることがわかるのです。

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