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海外就職経験者が見たシンガポール
~暮らす、働く、起業する~Vol.8


写真:シンガポール街並みの風景 (マーライオン シンガポール)

前回のコラムでは、著者が体験したシンガポールでの宇宙事業立上エピソード前半として、プロジェクトの始まりや、仲間づくりのきっかけとなった出来事についてお伝えしました。今回は、後半部分として、売上達成までどのようなプロセスを辿っていったのかをお伝えします。また、現存する企業であるため、詳細にはお伝えできない部分がありますこと、先にお断わりしておきます。

5月 法人登記を開始

1月に宇宙事業立上げが決まってから、実際に法人登記を行った5月までの間は、情報を集めながら、人にアイデアを話し、そして形にしていく方法でマーケティング調査を行っていました。具体的には、社長は学会参加や専門書で宇宙業界についての情報収集を英語、日本語で行い、私自身は、シンガポール宇宙業界の交流会への参加や、社長の営業を同行していました。情報収集と同時に、人に会うたびに「宇宙事業を立ち上げたい」と話し、反応を見ながら事業内容を練っていったのです。

5月初旬、より信頼を高めるために法人登記に踏み切りました。というのも、見込み顧客や、取引先と話を進めていく中で、住所や連絡先が記載されたビジネスカードや、ホームページが整っていた方が、実存する事業であると安心感を与えられると考えたからです。日本ではなくシンガポールに法人を作るということは社長の決断でした。シンガポールであれば海外とも迅速にコミュニケーションを図ることができ、また、日本の特質を理解している点において、日本とも取引ができるような中間的な役割を担えるという考えから、シンガポール法人として登記を行ったのでした。

Vol.6の回でお伝えした通り、シンガポールでは少ない障壁で登記までのステップを踏むことができます。大きな理由として、外国人受け入れ政策に伴う戦略推進により、外国人の起業する環境が整っているからです。もう一つの理由は、法人登記から、その後の税務申告まで代理で行う「カンパニーセクレタリー」業務請負会社が数多く存在しており、実務を一任して進めることができるためです。

また、シンガポールにも日本と同様にシェアオフィスが存在しており、法人登記に適当な住所をカンパニーセクレタリーに探してもらい登録することもできます。そのため、私たちの場合も登記に関わる期間はわずか2週間程度で完了し、同時に、ホームページも専門家にお願いして、日本語、英語の二か国語対応で準備することができたのです。

プロジェクトを作成

法人登記までの間に、社長自身がやりたがっていた事業案が固まりました。しかし、その事業内容は時間や多額の資本を要するものでした。宇宙事業は、近年では民間企業やベンチャー企業が活躍している業界ですが、社長が思い描いていたこの事業は完全なるブルーオーシャンであり、まだ誰も手を付けていない分野でした。そのため、資本を増やすために投資家を探す、この研究分野を買ってもらう等のアイデアを思い浮かべては行動してみましたが、宇宙業界自体が衣食住を伴うような業界でもないため、直ぐにお金に結び付く可能性は、今振り返ってみても高くなかったのではと思います。

そんな中、宇宙事業に関する別のアイデアがプロジェクト化し、瞬く間にチームが出来上がって本格化していきました。実はこのプロジェクトのキーパーソンは、前回のコラムでお伝えした、社長の誕生日会でお知り合いになった方々でした。彼らからアドバイスを頂き、プレゼンテーション資料を日々改善しながら、販売できるような商品を作っていきました。そして販売方法についても、悩み、探し続け、複数パターンを用意し、顧客獲得の為に活動し続けました。例えば、投資家の方に販売できないか、その場合どうやってルートを作るか?海外向けか、日本向けか?営業を専門にやっているところに販売してもらえないか。何が売り文句となるのか?もしくは、自分たちでどういうところに持っていて説明をさせてもらえるか。どこが興味を引いてくれるか等です。

12月 売上が立つ

秋ごろから、私たちが直接顧客を探すという活動だけでなく、次第に、協力してくださる方々が増え、周りの専門的な分野で活躍している人に広めてくれるようになりました。そして、12月初旬、ついにこのプロジェクトで初めて売り上げが立ちました。正直なところを言うと社長も私も、誰が、どれだけ、どのような人たちに拡散してくださっているのか、その時点ではあまり把握できていませんでした。いろんな方法を試しながら顧客探しを進めていきましたが、どういった方に興味を持ってもらえたかというのは、その場ですぐに分かるわけではありません。私たちが話した内容が何人もの人を介して波及していき、数か月後には私たちの知らないところにまで繋がっていることを後に知ることになるのでした。

この事業については、何か製造コストをかけて商品を作ったものではなく、実質経費が少なく始められ、結果として大きな売上を立てる結果までいきました。それまで事業立ち上げ等の経験が全くなかった私にとっては常識を覆す印象的な経験となりました。

後半のまとめ

新規事業の営業を進めていく中で、より信頼性を高めるためにシンガポールで法人登記に踏み切ったこと。そして、法人登記に要した期間は約2週間程度と、「シンガポールは外国人が起業をしやすい国」を体感した出来事を綴ってきました。これらに加えて、前回の続きとして、アイデアを掲げて行動し、発信してくことで人が集まり、それに共感を示してくれた方々が更に波及効果をおこし、結果売り上げに至った経緯をお伝えいたしました。

全体的な内容だけを読み取ると、シンガポールという国に限らず、日本においても起業して売り上げを立てていく考え方や手法は共通する箇所があるかもしれませんし、本質的なところは一緒かもしれません。それでも、思い立ったことを日々行動に移して、結果として結びつけられたのは、シンガポールならではのスピード感によると言えるでしょう。

また、宇宙業界の交流会という専門的な場に、新参者である私が一人で参加したにも関わらず、自由に情報収集ができたのも、外国人起業を広く受け入れているシンガポールならではと言えるのではないでしょうか。業界未経験で一からビジネスを立ち上げたベンチャー企業が、B to Bの法人を相手に、1年間で億単位の売上を達成できた結果は、このようなスピード感と、キーパーソンと繋がりやすいシンガポールの利点を活かせた好事例として、皆さんにお伝えさせていただきました。

写真:
Merlion. Singapore. by Bernard Spragg. NZ

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