バッハをこの世に知らしめた天才芸術家、メンデルスゾーン
新型コロナウィルスの影響が大きくなってきていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今回は、美しい旋律と明るい色調とで日本でも人気を誇る作曲家をご紹介します。ヤーコプ・ルードヴィヒ・フェリークス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809~1847)。かの有名なメロディと共にお楽しみ下さい。
ドイツ・ハンブルグのユダヤ人銀行家の家にメンデルスゾーンは生まれます。経済的に成功し、また知性と教養を併せ持つ両親は、メンデルスゾーンと彼の姉に幼い頃から一流の学問や芸術に触れされて育てました。
まず、とても有名な作品をお聴きいただきましょう。
「パパパパーン!」というあのファンファーレ。この一曲は彼の傑作「真夏の夜の夢」の中の結婚行進曲です。
彼は12歳頃から、自宅で音楽会を開き、姉のファニーと共に自作のピアノ作品や、ときにはオーケストラを雇ってオーケストラ作品も発表していきます。
両親は、ハイネやフンボルトといった詩人、学者とも交流がありました。また、こうしたつながりから、少年メンデルスゾーンは老齢のゲーテを訪ね2週間ほど館に滞在しています。ゲーテがメンデルスゾーンの才能に感じた驚きは相当なものだったようです。何しろ絵画も達者で優れた風景画が残っているほどです。
若い頃の作品の一つを「真夏の夜の夢」からお聴き下さい。全曲で一時間ほどですが、その中の序曲です。
これは、シェイクスピアの戯曲に音楽をつけたものです。作中の、森の中に生きる妖精たちや不思議な魔力、未知のものがこの上なく明るく楽しい性質のものとして描かれています。わずか17歳でこれを書いたということも信じられないですが、それ以上に驚嘆すべきなのは、シェイクスピアの作品を深く理解しているその教養の深さなのかもしれません。
彼は他の音楽家とも交流しました。筆頭にあがるのは、ロベルト・シューマン。シューマンといえば、こちらの曲が有名です。
「トロイメライ」
シューマンは、作曲家でありながら、文筆も行い音楽雑誌も発行していました。メンデルスゾーンは26歳頃彼と親しくなり、双方の研究により過去の埋もれた傑作を発掘し、世間に紹介していくといった活動も行いました。例えば「野ばら」で有名なシューベルトの作品は今でこそ知られていますが、当時としては無名な作曲家だったので、2人の活動によって初めてその作品が広く認められたわけです。
メンデルスゾーンは、その知識や教養によって音楽史に残る活動を繰り広げていきました。その筆頭に挙がるものがバッハの紹介です。実は、今でこそ有名なバッハは、当時は過去の遺物として、楽器習得のためのレッスンの教材としてピアノ曲などが多少用いられる程度にしか扱われていませんでした。
しかし、14歳のときにメンデルスゾーンはバッハの「マタイ受難曲」の写筆スコアを誕生日プレゼントとして与えられ、その後20歳で、この曲の初演をベルリンで行います。その日は、奇しくもあのパガニーニのベルリンデビューの日だったとか。シューベルトの生前、同じ日に同じ街でコンサートを開いたときにはシューベルトの10倍以上のお客さんがパガニーニのほうに詰め寄せたそうですが、この日は「マタイ受難曲」の会場は人で溢れ、1000人以上も中に入れなかったそうです。演奏は大成功、そしておよそ10日後の3月21日に再演されました。この日はバッハの生誕日でした。
ここで、メンデルスゾーンの代表作の一つ、交響曲第4番「イタリア」をお聴き下さい。イタリア旅行ののち書かれたものです。今回の記事のオーケストラ作品の演奏はメンデルスゾーンが当時監督を勤めたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によるものです。
聴くからに、陽光溢れるイタリアの明るさが伝わってきます。当時は、イタリアといえば文化を学びにローマへ、そして何より南の土地の気候は癒しでもありました。
メンデルスゾーンの美しいメロディは、一見何気ないようなピアノ曲でも威力を発揮します。ピアノ独奏曲として書かれた「無言歌集」。これは、文字通り言葉がない歌集ということですが、いかに彼が美しい旋律を描くことができたか、その実力が示されています。
「無言歌集」より有名な「春の歌」。
順風満帆に思えるメンデルスゾーンでも、ユダヤ人ということで現代においてもその音楽は難しい扱いを受け、本人もキリスト教に改宗したりなどと、やはり世情や社会と無関係ではありません。
最後に彼の代表作であり、ヴァイオリニストにとって重要な作品の一つでもあるヴァイオリン協奏曲をお聴き頂きましょう。素晴らしい芸術の前には人種も社会情勢も消し飛ぶだろう。それほどの作品です。
我が国を代表する世界的ヴァイオリニスト諏訪内晶子さんと、同じく代表するオーケストラNHK交響楽団による演奏です。
- 写真:
- 動画:
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- Mendelssohn – Wedding March from "A Midsummer Night’s Dream", Op. 61
- Mendelssohn – A Midsummer Night’s Dream Overture, Op. 21 (Kurt Masur, Gewandhausorchestra)
- 牛田智大 – シューマン:トロイメライ
- Mendelssohn – Symphony No. 4 A major Op. 90 "Italian" (Kurt Masur & Leipzig Gewandhaus Orchestra)
- Barenboim plays Mendelssohn Songs Without Words Op.62 no.6 in A Major – Spring Song
- 諏訪内晶子 メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲